隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
 リビングへ出ると、張り詰めていた己の神経が、一気に和らぐ。


「ママみて。ひいじいといっしょに、えかいたの」


 輝が裸足でトトトッと駆け寄ってきて、手にした大きな画用紙を誇らしげに掲げた。

 カラフルなクレヨンでいくつもの人物の顔が描かれている。


 リビングは、昂輝が新しく買い与えたおもちゃや絵本であふれていた。

 蒼乃がどれだけ止めても『輝を退屈させているから』と言い訳しながら、彼は次々と買い込んでしまう。
 

 初めてこの部屋にやって来たとき、恐ろしく無機質で整えられた空間だと感じた。その場所が、今は、子供の柔らかな熱量で満たされている。


「あら上手。この子が輝ね。これはママ?」
「うん。こっちがひいじい。こっちのは先生」
「へえ、みんな上手に描けてるわ」


 祖父の顔には、しわが描かれていた。
 よく特徴をとらえている。


「これはみきちゃん、ゆうまくん」


 保育園のお友達の名前を指差していく輝の小さな指を眺めながら、蒼乃は画用紙の端、少し離れた場所に描かれた、灰色のクレヨンで大きく形取られた男の子の絵に目を留めた。


「この子はだあれ?」
「おじちゃん」


 輝は屈託のない笑顔でそう答えた。

 蒼乃の胸の奥に、じわりと熱いものが込み上げてくる。


 輝の小さな世界の中に、昂輝という存在が当たり前のように加わっている。

 その事実が、何よりも嬉しかった。


「ぼく、ひいじいとおふろはいる」


 小さな芸術家は、画用紙をソファに置くと、今度は脱衣所のほうへと嬉しそうに走っていった。


 蒼乃はキッチンに向かい、エプロンを締めた。

 お鍋の中では、昼の内に仕込んでおいた夕食のロールキャベツが、コンソメの出汁を吸ってふっくらと並んでいる。

 小さく切れば、利き手の使えない祖父も食べやすい。

 湯気とともに広がる肉と野菜の甘い香りが、部屋を、家庭の匂いで満たしていく。

 ここにいると、輝の誘拐や祖父の工房が襲撃された事など、別の世界の出来事だったように思えてくる。


 コンロに火をつけた。


 蒼乃の心には、先ほどの祖父の言葉がまだ重く残っている。

 どうすれば石の声を聴き、昂輝を救うに足る研磨ができるのだろうか。

 その明確な答えはまだ霧の向こうだ。
 小さな不安が、煮え立つ気泡のように胸の内で弾けた。



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