隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~


ーーキィッ……



 鈍いブレーキ音を立てて、蒼乃たちの乗った警備会社の車が、会場であるホテルへと滑り込んだ。


 サファイアが収められた厳重なアタッシュケースは、同乗していた体格の良い警備員たちに任せ、蒼乃は助手席のドアを開ける。

 片手が使えない祖父にとって、車の乗り降りはそれだけで大変な重労働だ。


「はい、お祖父ちゃん、そっちの手を……」


 蒼乃が匠の身体を支えようと手を伸ばしかけた、その時だ。

 建物の影から、鋭い悲鳴と男たちの粗野な怒号が、鼓膜を突き破らんばかりに響き渡った。


「離せ!」
「きゃーっ! 誰か!」


 異変を察知し、蒼乃は慌てて車の外へ飛び出した。

 視界に飛び込んできたのは、フルフェイスのヘルメットを深く被り、黒い衣服に身を包んだ数人の男たちの姿だ。

 彼らは素早い動きで警備員たちを取り囲み、手に持ったバールを容赦なく振り落とす。

 アタッシュケースを抱えた警備員とそれを守ろうとする警備員。数人が、地面にもつれ合いながら、必死にケースを死守しようと抵抗していた。


 狙いは、あのサファイアだ。


「だめ!」


 身体が考えるより先に動いていた。

 蒼乃は遮二無二走り込むと、男たちと警備員が激しく押し合う、混沌とした輪の中へと身体をねじ込む。

 四方八方から、獣のような荒い息遣いとともに不気味な手が伸び、ケースを力任せに奪い合っている。


「いかん、蒼乃! 戻れ!」


 背後で祖父の張り裂けんばかりの絶叫が聞こえた直後、蒼乃の頭部に、鈍く重い衝撃が走った。





――ゴン!





 素手で、殴られた。

 一瞬、視界がチカチカとした激しい火花のような光に覆われ、激痛が脳を揺らす。

 頭が朦朧とし、指先の力がふっと緩んだ。隙を突かれ、頑丈なケースが強引に引っこ抜かれた。


「だめーっ!」


 必死に声を枯らして叫ぶ。

 しかし、ケースを強奪した男は俊敏な動きで反転し、エンジンをふかして待機していたバイクへと飛び乗った。

 逃がしてはならないと足を踏み出そうとした瞬間、残った犯人の一人が、背後から蒼乃の髪を容赦なく掴み上げる。


「うっ……!」


 頭皮まで千切らんばかりの力で引きずられ、仰け反った蒼乃の視界の中で、男の懐から抜かれたナイフの刃が、冷たくきらりと光った。


「ママ!」


 車の陰から、輝の引き裂かれたような叫び声が響く。


「輝! おじちゃんのところへ行きなさい! 走って!」


 恐怖をなぎ倒すように、蒼乃は腹の底から全力で叫んだ。

 息子を巻き込むわけにはいかない。髪を掴まれたまま、必死の形相でナイフを持つ犯人を正面から睨みつけた。




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