隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
蒼乃が声をかけると、祖父はびくりと肩を揺らし、慌ててそれらの封筒を手で隠そうとした。
しかし、量が多く、腕からはみ出た封筒が足元へと落ちる。
祖父は、なんとも言えない気恥ずかしさと情けなさに満ちた顔で、視線を泳がせた。
額には、心身ともに削り取られたような、深い疲労の皺が刻まれている。
「いや、なんでもない。ただ、ちょっと小難しい手続きが多くてな」
「……お祖父ちゃん、これ」
銀行の封筒だ。
大きく『督促状』と印刷されていた。
「俺みたいな古い人間には、最近の銀行のやり方はさっぱりわからん」
力なく笑おうとするが、その声はかすれていて、いつもの張りがまったくない。
蒼乃が黙って散らばった書類を拾い上げると、祖父はついに諦めたように深く、重い溜息をつき、研磨台に両肘をついて顔を覆った。
いくつかの銀行、信用金庫。それから貸金業者からの封筒もある。
「もう、辞めるしかないな」
これまでどんなに苦しい時も、石を前にすれば目を輝かせていた祖父の口から、弱音が溢れ出た。
その言葉が、蒼乃の心臓を冷たく突き刺す。
「そんなの、だめだよ。お祖父ちゃんの技術は世界一なんだから」
「……まぁ、でも、人生、仕方のないこともあるもんだ」
力なく、祖父が笑う。
蒼乃には、耐えられない光景だ。
「……私が、なんとかする」
石の声を聴く、魔法使いである祖父。
祖父を、この大切な工房を守りたい。
蒼乃は初めて有給休暇を取った。それからの数日間、金融機関をがむしゃらに走り回った。
慣れない書類を抱え、冷たい冬空の下、何軒もの銀行の門を叩く。
しかし、まだ実績のない若手研磨師の話を、まともに聞いてくれる窓口はどこにもなかった。
祖父の経歴を持って行ったところで、高齢であることを指摘されるだけだ。
山梨の寒風は、蒼乃の頬を容赦なく打ちのめしていく。