隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~


 木曜日。

 通い詰めていた地方銀行の、殺風景な応接室に通された。


 部屋の隅に置かれた古い掛け時計の針の音だけが、カチ、カチ、と規則正しく室内に響き渡っている。

 蒼乃はパイプ椅子に浅く腰掛け、膝の上で何度も指を擦り合わせていた。指先は寒さと緊張で完全に感覚を失っている。

 対面に座る銀行の担当者は、蒼乃が必死に書き上げた再建計画書に一通り目を通すと、温度のない、機械的な手つきで書類をパタンと閉じた。


「申し訳ないんですけれどね……及川工房さんには、もうこれ以上お貸しすることはできないんですよ」


 男の冷ややかな声が、静かな部屋に響く。

 目の前が真っ暗になる。
 頭の芯が急激に冷たくなり、蒼乃は言葉を失った。

 これ以上、どこを回ればいいのか。
 どうやって祖父を守ればいいのか。

 全く見当がつかない。




 銀行を出て、ふらふらと歩く。


 昂輝に相談してみようか。


 一瞬、頭に浮かんだ顔をかき消すように、蒼乃はぶんぶんと頭を振った。

 フェアじゃない。

 それに、家の事情に、何の関係もない彼を巻き込むことなど出来ない。


 腕に抱え込んだ書類を握る手に、ぎゅっと力を込める。

 交差点でが、信号が変わろうとしていた。
 進まなければならない。

 どこへ向かっているのか分からないまま、蒼乃は走った。


 点滅する青が、涙でにじむ。反対側に走り切った時、蒼乃は、ぱたりと意識を失った。

< 15 / 112 >

この作品をシェア

pagetop