隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
木曜日。
通い詰めていた地方銀行の、殺風景な応接室に通された。
部屋の隅に置かれた古い掛け時計の針の音だけが、カチ、カチ、と規則正しく室内に響き渡っている。
蒼乃はパイプ椅子に浅く腰掛け、膝の上で何度も指を擦り合わせていた。指先は寒さと緊張で完全に感覚を失っている。
対面に座る銀行の担当者は、蒼乃が必死に書き上げた再建計画書に一通り目を通すと、温度のない、機械的な手つきで書類をパタンと閉じた。
「申し訳ないんですけれどね……及川工房さんには、もうこれ以上お貸しすることはできないんですよ」
男の冷ややかな声が、静かな部屋に響く。
目の前が真っ暗になる。
頭の芯が急激に冷たくなり、蒼乃は言葉を失った。
これ以上、どこを回ればいいのか。
どうやって祖父を守ればいいのか。
全く見当がつかない。
銀行を出て、ふらふらと歩く。
昂輝に相談してみようか。
一瞬、頭に浮かんだ顔をかき消すように、蒼乃はぶんぶんと頭を振った。
フェアじゃない。
それに、家の事情に、何の関係もない彼を巻き込むことなど出来ない。
腕に抱え込んだ書類を握る手に、ぎゅっと力を込める。
交差点でが、信号が変わろうとしていた。
進まなければならない。
どこへ向かっているのか分からないまま、蒼乃は走った。
点滅する青が、涙でにじむ。反対側に走り切った時、蒼乃は、ぱたりと意識を失った。