隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
少しでも祖父を安心させたい。
金曜日の午後。
蒼乃は、自分の貯金を全ておろして、祖父の経営する及川工房へと向かった。
足りないだろうが、一時しのぎにはなる。
すべて渡すことで、生活の不安は増えるが、自分はまだ若い。働けば何とかなる。
断られても何でも、祖父に押し付けるつもりで封筒を握りしめた。
工房の入り口が見えた時、蒼乃の足がピタリと止まる。
いつもは静かな職人しか来ない場所に、見慣れない艶やかな高級車が数台、威圧的に並んでいた。
工房の引き戸は半分開け放たれており、中からは重苦しく、それでいて騒がしい男たちの声が響いてきている。
蒼乃の胸に、冷や水を浴びせられたような嫌な予感がよぎった。
慌てて中へ飛び込む。
と、異様な光景が広がっていた。
スーツ姿の男たちが何人も立ち並ぶ。その中には、先日蒼乃を冷たくあしらったあの地方銀行の担当者の姿もあった。
彼は計画書を閉じた時とは打って変わり、卑屈なほど腰を低くして誰かに頭を下げている。
「何事ですか!」
蒼乃は男たちを鋭く睨みつけ、声を張り上げた。
銀行員は蒼乃の姿に気づくと、薄薄しい笑みを浮かべて眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ああ、どうも先日はご足労いただきまして。実はですね、返済が本日まででしたので。いま、全額を収めていただいたところです」
返済。
全額。
頭の中が混乱する。どこにそんな大金があったというのだろう。
蒼乃は呆然としたまま、部屋の奥の作業台の前にぽつんと座る祖父を見つめた。