隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~


 祖父の正面、一番光の届かない影になった上座に、一人の男が深く腰掛けていた。


 すべての元凶である、その買い手の男に向かって、蒼乃は我を忘れて叫んだ。


「何を勝手に……ここは、祖父の工房です!」


 激情に駆られた蒼乃の言葉を受け止めた男は、ゆっくりと、手元にあった書類に視線を落としたまま、静かに口を開いた。


「工房の価値に見合う額をお出ししたまでですよ。こちらの職人たちの腕は確かだ。今後とも、うちの専用工房としてしっかり働いていただきたい」


 その声が鼓膜に触れた瞬間、蒼乃の身体から血の気が引いていく。 

 聞き間違いであるはずがない。

 蒼乃が惹かれ、愛し、心の支えにしている男の声だ。


 いつもの、甘々しさはない。

 優しさも、温もりも完全に感情が削ぎ落とされた、温度のない、ただビジネスだけを見据えた響き。

 だが、昂輝の声だ。



 男が、ゆっくりと影の中から顔を上げる。


 そこにいたのは、蒼乃が世界で一番愛し、信頼し、そして、自分のお腹に宿った新しい命のことを間もなく告げようとしていた、御堂昂輝その人だった。


 昂輝の目が、目の前に立つ蒼乃を捉える。


 彼の瞳がわずかに大きく開かれ、驚きの表情がその端正な顔に浮かんだ。

 まさかここで蒼乃と出会うとは思っていなかったのだろう。

 そんな動揺が、一瞬だけ彼の表面を揺らす。


 昂輝の大きな手の中に握られた及川工房の権利書を、蒼乃は、見つめた。
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