隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
第4話:逃亡
「契約は成立だ。関係のない者は出ていってくれ」
御堂昂輝の声が、静まり返った工房の空気を鋭く切り裂いた。
一瞬だけその双眸に走った驚愕の光は、すでに消え去っている。
その顔には、感情をすべて削ぎ落とした、峻厳なビジネスマンの顔が張り付いていた。
彼は、呆然と立ち尽くす蒼乃には一度も視線を向けることなく、作業台の前の及川匠へと真っ直ぐに向き直る。
銀行員たちが何度も頭を下げながら、這うようにして部屋を出て行った。
蒼乃はただ、目の前にいる男の姿に息を呑んでいた。
毎週末、山梨で逢瀬を重ねるごとに見せていた、あの石好きの青年の面影はどこにもない。
東京で見た、スマートで情熱的な感情も、見えてこない。
ひたすらに、ビジネスのことだけを考え、蒼乃のことなど歯牙にもかけない昂輝は、本当に、蒼乃の知る彼なのだろうか。
昂輝は硬い声のまま、祖父、及川匠に向けて淡々と事務的な話を口にした。
「書類のやり取りは以上です。何か質問はありますか?」
「いえ。ありがとうございました」
「……こちらこそ。では、詳しい話は週明けにでも人をやりますので。今後とも、よろしくお願いします。及川さん」
昂輝は踵を返し、出口へと歩き出す。
横に控えていた数人の部下に向け、彼は簡潔に指示を出した。
「東京へ帰るぞ」