隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
カタリ。
扉が閉まる。
工房には、祖父が書類をまとめる、カサカサとした音だけが鳴っている。
震える脚を叩き、蒼乃は外へ出た。
工房の前に止められていた黒塗りの車。
蒼乃が走って追いかけると、昂輝がドアに手をかけたところだった。
「騙してたの?!」
蒼乃は、感情の読めないスーツの背に、声を投げる。
昂輝はドアノブを握ったまま、ピタリと動きを止めた。
その広い背中は微かに強張っているように見えなくもないが、こちらを振り返る気配は微塵もない。
蒼乃の指先は、寒さと恐怖で激しく震えていた。
毎週末、共に過ごした時間。テーマパークや水族館のデート、クリスマスのディナー。スイートルームでの熱い抱擁。
二人で紡いだ甘い時間。
そのすべては、この工房を容易く手に入れるための周到な演技だったのだろうか。
信じていた世界のすべてが足元から崩れていくような、深い悲しみが胸を突き上げる。
長い沈黙の後、昂輝の口から低く、温度のない声が漏れた。
「……はじめから、この工房は買収対象だった」
その一言が、蒼乃の鼓膜を静かにに揺らす。
『君との出会いも、すべては買収計画の一部だった』
彼の言葉は、そう告げているようにしか受け取れない。
蒼乃は奥歯をきつく噛み締め、ポケットの中で貯金を下ろしてきた封筒を破れそうなほど強く握りしめる。
昂輝はそのまま滑り込むように車内へと滑り込み、ドアが重々しく閉められた。
黒塗りの車体が静かに発車し、冬の乾いた道路を滑るように去っていく。
蒼乃は去りゆくテールランプを、激しい怒りと絶望の入り混じった瞳で見つめ続けていた。
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