隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
五年前。
山梨の緑豊かな自然に囲まれた、古い研磨工房。蒼乃は、若手研磨師として研鑽を積んでいた。
幼い頃、祖父に預けられて育った蒼乃にとって、祖父であり伝説の研磨師でもある及川匠の背中は、目指すべき唯一の道標だった。
東京で両親とともに過ごした時期もあるが、転勤族である父の仕事の都合で、山梨の祖父の家に預けられることが多かった。
気づけば、こちらでの生活の方が長い。
高校を卒業して、研磨師になるための専門学校へ進学。
在学中に、両親が交通事故で亡くなった。
専門学校を卒業すると、祖父の工房とは別の場所へ就職した。修行だ。昼間は勤め先で働き、夜は祖父の工房で勉強した。
砂と水にまみれ、ひたむきに石を磨く日々は、充実感に溢れている。
その日、蒼乃の勤める工房の軒先では一般向けの研磨体験イベントが開かれていた。
賑わう参加者の中に、周囲の華やいだ空気から浮いている青年がいることに気づく。
家族連れやカップルが多い中、男性が一人で参加しているのは珍しい。
使い古したジーンズとシンプルなシャツ。しかし、何処と無く洗練された雰囲気を隠しきれないような、品の良さがある。
会場を歩いていると、一組の親子から声がかかった。
「うん、いい感じですね。少し、私にも磨かせていただいていいですか?」
一般の人は、なかなか全方位を磨ききれない。子供だと、特に難しい。
ムラになった部分を見つけ、曇りを消す手伝いをして回るのが、今日の蒼乃の仕事だ。
「綺麗なフローライト。はい、じゃあ最後の仕上げを頑張ってね」
満遍なく磨き、子供へ返す。女の子は嬉しそうに、仕上げにかかった。
微笑ましくその様子を見ながら、蒼乃は立ち上がる。
「すみません」