隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~

「お疲れ様」


 陽介が立ち上がり、穏やかな笑みを浮かべて蒼乃に歩み寄ってきた。


「へへ。今日もありがとう、日向陽介『先生』」


 少しいたずらっぽく笑うと、陽介は「よせよ」と照れくさそうに首を振った。


「ママ、ぼくいい子だったよ」

 
 笑顔で報告してくる息子を、蒼乃は抱き上げた。
 そのまま頬ずりをする。

 二人を見つめていた陽介が、目を細めながら報告してくる。


「うん。輝くんは、今日もとても良い子でした。最近、妙に形の良い小石とか、キラキラしたプラスチックの破片ばかり集めてるけどな。誰に似たんだか」
「う……それは、まあ、私の遺伝かな」


 たしかに、この頃の輝はやたらと石に興味を持つようになった。

 公園や路上で綺麗な石を見つけては「ママ、これ!」と嬉しそうに差し出す。息子のコレクションが、家にあふれている。


「あ、そうだ。蒼乃、来月の同窓会は行く?」


 陽介が散らばったおもちゃを片付けながら、何気ない口調で問いかけてきた。


「うーん、行かないかな。仕事もあるし。陽介は?」
「俺も行かない予定。地元に帰るのも面倒だしさ」


 二人の間で、気取らない空気のまま会話が流れていく。

 他の保護者がいる前ではきちんとするが、それ以外は特に気を遣わないのが二人のお約束になっていた。

 陽介の飾らない優しさは、張り詰めた蒼乃の心をいつも柔らかく解きほぐしてくれる。


「私ね、輝と動物園にいく約束をしているの。有給は、そっちに使いたいかなと思って」
「お、いいね。俺も一緒に行こうかな」


 その言葉に、蒼乃の腕の中で輝の瞳がパッと輝いた。


「ほんと? ひなた先生も、いっしょ、どうぶつえんいく?」
「こら、輝。毎回先生のこと誘ったらご迷惑でしょう」
「え、いいよ本当に。一緒に行こうぜ。俺も久々にライオンとか見たいし」
「らいおん? らいおんさん、がおーっだよ!」


 輝は母親の腕から飛び降りると、小さな両手を爪のように立て、「がおーっ」と無邪気な声を上げ、駆け回った。

 それを見た陽介が「うわあ、食べられる!」とおどけて身をすくませる。

 二人のやり取りを見つめながら、蒼乃は心の底から声を上げて笑った。


 下町の、小さな保育園の片隅。

 夕暮れの優しい光に包まれたこの温かい空間には、ささやかで、揺るぎない幸福の形が存在していた。








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