隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
山陰地方の山間部にある、小さな研磨工房の前に一台の車が停まっている。
周囲の寂れた景色には全く不釣り合いな、シルバーグレーの高級車。その車内は、重苦しい静寂が満ちていた。
運転席に座る御堂昂輝は、ダッシュボードの明かりだけを頼りに、一冊の地図を睨みつけている。
目の下には色濃い疲労の影があり、その瞳には感情の死に絶えたような、どろりと濁りを帯びた虚無的な渇望が浮かぶ。
昂輝の指先が、地図のページをめくる。
そこには、日本全国にある大小さまざまな研磨工房の位置が、緻密に書き込まれていた。ネットの情報や口コミから拾い、自ら転記したものだ。
そして、そのほとんどの文字の上に、黒い×印が書き殴られている。
「ここも空振りか」
掠れた声が、狭い車内に虚しく響く。
この五年間、彼は仕事のわずかな隙間時間をすべて削り、蒼乃を探し続けていた。
どんなに有能な探偵を使っても足取りが掴めないため、次第に、自ら全国の工房へ足を運び、門を叩くようになった。
蒼乃は研磨師の仕事に誇りを持っていた。
だから、どこかで必ず石を磨いているはずだ。
その一縷の望みだけが、今の昂輝を動かす唯一の燃料かもしてない。
もしあの時、自分がもっと早く事情を話していれば……。取り返しのつかない後悔が、逃れようのない餓えとなって、毎夜彼の心臓を鋭く抉り続けている。
もう、引き返すことなどできない。
彼女を見つけ出し、その手をもう一度掴むまでは、この地獄のような渇きが癒えることはないと分かっていた。
昂輝は忌々しげに地図を助手席へと放り出すと、再び車のキーを回す。
低く重いエンジン音が、夜の静寂を切り裂く。
彼はギチリとハンドルを握りしめ、東京へ戻るため、アクセルを深く踏み込んだ。
暗い田舎道から大きな国道へ出ると、遠くに夜景が見える。
つい、車を止めてしまう。
車を降り、冷たい空気に触れながら、夜景を眺めた。
あの日、二人で見た東京の街。
『ラピスラズリとタンザナイト』そう、彼女が評した夜景がどんな色だったか、もう、思い出せない。
昂輝は祈るように、呟いた。
「いったい、どこにいるんだ……蒼乃」