隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~

第7話:種




 下町の小さな質屋、大黒堂の奥にある鑑定ブースは、昼間でも薄暗い。


 白河蒼乃は、作業机のランプの光を浴びながら、持ち込まれた古いエメラルドのリングをルーペで覗き込んでいた。

 レンズの向こうで、深く濃い緑のなかに、石特有の微細な内包物が浮かび上がる。

 指先をほんの少し傾け、光の屈折と台座の爪の摩耗具合を確かめる。

 研磨ではない。しかし、石と向き合えるこの時間は、蒼乃にとって大切な、自分らしくいられる時間だ。


 鑑定結果を淡々と書き留めていく。

 ふと、カウンターの向こうで老眼鏡をかけた店長が、思い出したように声をかけてきた。


「質流れ品大市?」


 聞き慣れない言葉に、蒼乃はルーペを置いて首を傾げた。

「そう、最近はリユースって呼んで、中古でも気にしない人が増えたよね。今度うちも四越百貨店のに出店するんだよ」


 店長は、きれいに磨かれた別のショーケースに目を向けながら、話しかける。


「販売だけで鑑定はなし。基本、白河さんは来なくてもいいんだけど、何せ忙しいからさ。スタッフは多めに入れたいなと思ってて。ちょっとバイト代に色つけるし、興味ある?」


 バイト代に色がつく。

 決して裕福とは言えない暮らしをしている蒼乃にとって、喉から手が出るほど魅力的だ。

 四越百貨店で行われるような大きな催事とはいえ、質流れ品の催事などには、間違っても、昂輝は来ないだろう。


 しかし、山梨の業者も出店しているかもしれない。

 万が一にも山梨の研磨工房の知り合いに鉢合わせるようなリスクは避けたかった。

 今のままでように、ひっそりと隠れていたい。そのためには、人の多い場所は避け続けなければならない。


「バイト代は魅力的ですけど……人混みは苦手なので。お誘いありがとうございました」


 蒼乃は静かに、しかしきっぱりと首を振って断った。








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