隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~



 夕暮れ時、茜色の光が差し込む保育園の門をくぐったとき、いつもとは違う異様な静けさが蒼乃の胸をざわつかせた。


 いつもなら「ママ!」と真っ先に駆け寄ってくるはずの輝が、教室の隅っこで小さく丸くなり、肩を震わせて座っている。

 その小さな額には、痛々しい白い包帯が巻かれていた。

 園長先生が、沈痛な面持ちで蒼乃に歩み寄ってくる。


「申し訳ありません、お母様」


 話を聞けば、おもちゃの取り合いから友達と喧嘩になり、投げられた木製のおもちゃが額に当たって怪我をしてしまったのだという。

 さらに、その際に輝も興奮して相手の手を引っ掻いてしまった。相手の母親が今、別室で激怒しているのだと告げられた。


 通された応接室の扉を開けた瞬間、突き放すような、厳しい憎悪の視線が蒼乃を貫く。

 ブランド物のバッグを抱えたスーツ姿の女性。

 みるからにキャリアウーマンと言った風貌の母親は、蒼乃の着古した衣服とノーブランドの大きなトートバッグを一瞥し、不快そうに鼻を鳴らした。


「息子が秀明くんを引っ掻いてしまったようで、申し訳ありませんでした」


 頭を下げる。


「うちの子の手に、傷跡が残ったらどうするんですか」
「秀明くんのお母様、輝くんも怪我をしているわけですから……」


 園長先生が取りなそうとするが、相手方は聞き入れる様子がない。


「そんなの関係ありません。うちの子は、輝くんが意地悪をしたと言っています。その上乱暴するだなんて、野蛮だわ」


 蒼乃は深く頭を下げ、我が子の小さな手を背中で握りしめた。


「本当に、申し訳ありませんでした」


 謝罪の言葉を述べる蒼乃の頭上から、刃のような言葉が容赦なく降ってくる。


「これだから片親の子は」


 ドクン、と心臓が波打った。


 鋭利な刃物で、胸の最も柔らかい部分を直接削り取られるような激しい痛みが走る。

 指先が冷たくなり、奥歯がガタガタと震えそうになるのを、蒼乃は必死で堪えた。


 輝が悪いわけではない。

 自分の選択が、あの男から逃げ出すために一人で育てることを決めた自分の我が儘が、輝の名誉を貶めている。

 いわれのない言葉を浴びせられる原因を作っているのだという自責の念が、泥のように足元から這い上がってきた。



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