隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「……動物園、いつ行こうか?」
楽しい話題を振ると、輝の瞳がぱあっと弾けた。
「らいおんさん? あした! あしたいく!」
「あはは、明日はダメよ。来週ね、来週の何処かにしよう」
「うん、らいしゅー!」
輝は手を離すと、蒼乃の周りをくるくる回る。
「やったー、どうぶつえん! ねえママ、おべんと、たまごやき入れてね!」
「うん、もちろん」
無邪気に喜び始める輝の姿が、逆に蒼乃の胸をきりきりと締め付ける。
蒼乃は息子の手を握ると、再び歩き始めた。
アパートへと続く帰り道。沈んでいく夕日が、長い影を二人の足元に細長く落としている。
輝の小さな温もりを手のひらに感じながら、蒼乃の脳裏には、消えない疑問が渦巻いていた。
五年前、山梨の部屋を飛び出したあの時の選択は、間違いだったのだろうか。
これから輝が大きくなれば、周囲はもっとストレートに、悪意や偏見を伝えてくるかもしれない。
その度に、この子に今日のような悲しい思いをさせてしまうのは、あまりにも耐えがたかった。
自分一人では、この子の笑顔を守るための盾になりきれない日がくるかもしれない。
誰か、優しくて、自分たちを丸ごと包み込んでくれるような人が父親になってくれたら、この子はもう傷つかずに済むのだろうか。
ーー父親がいれば、もう、いじめられることもなくなるのだろうか……。
伸びていく親子の影。小さい方はぴょんぴょんと跳ねている。
それを見つめながら、蒼乃の心には、これまで考えようとしてこなかった迷いの種が、静かに芽生え始めていた。