隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~

第8話:見つけた



 大黒堂の通用口を開けると、にわかに、慌ただしい空気が狭い店内に充満していた。

 白河蒼乃が出勤のタイムカードを押した瞬間、店長が電話の受話器を肩と耳で挟んだまま、青い顔をしてバタバタと走ってくる。


「あ、白河さんちょうど良かった。お願いがあるんだ!」


 店長は受話器を置くなり、悲鳴のような声を上げた。


 聞けば、今日から始まる百貨店の催事に向かうはずだったスタッフ二人が、今朝になって急病で立て続けに倒れてしまったのだという。

 現場の人数が完全に足りず、大黒堂のブースが開けられないほどの緊急事態だった。

 四越百貨店で開催される、質流れ品大市へのヘルプ要請。

 きっぱりと断ったばかりの案件だったが、店長は両手を合わせて泣きついてくる。


「ごめん、人混みが苦手だって聞いているんだけどどうしても、どうしても足りなくて……!」


 業界の人間が集まるかもしれない場所への恐怖は、今も蒼乃の胸を重く縛りつける。

 しかし、こちらも子供の件では、色々と融通をきかせてもらっていた。何かがあれば早退させてもらい、体調が悪い日は休ませてもらうこともある。

 いつも気にかけて助けてくれている店長の窮地を見捨てるわけにはいかなかった。


 蒼乃は喉の奥を締め付けるような緊張を飲み込み、言った。


「……マスクを、外さなくてもよければ」


 顔の半分を覆うほど大きな白い不織布のマスクを深くつけ、普段はかけない度なしの地味な黒縁眼鏡を鼻梁に乗せる。

 艶のある髪は一本もこぼさないよう、後ろで極限までタイトにお団子にまとめた。

 自分らしさの全てを消し去り、どこにでもいるその他大勢の店員になりきって、蒼乃は百貨店へと向かった。








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