隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「ねえ、見て。すごくキレイ」
「こっちにもあるわよ! まぁ大きなダイヤモンドね」
四越百貨店の広大な催事場は、熱気と眩い光に満ちていた。
設営されたガラスのショーケースには、ブランド品をはじめ、全国の質屋から集まったきらびやかな地金や、大粒の宝石が所狭しと並べられている。
今日、蒼乃がする仕事は、鑑定ではない。
すでに売値の決まっている商品の販売だけだ。
「すみません、ルビーの指輪を見せていただけますか?」
「はい、今お出ししますね」
試着の補助。
それから、石の種類や価値について客から質問されれば、詳細を説明する。
全ての商品を直接鑑定をしている訳ではないが、特に困ることはない。タグに書かれている情報のほか、実物をみれば、だいたいのものは瞬時に説明することができる。
マスクの奥で静かに息を吐きながら、淡々と接客をこなした。
「最近はカラー石の人気が再燃しているって、本当だったんですね」
「そうそう。白河さんは普段鑑定しかしないから実感がないかもしれないけど、店でも色石がよくでるよ。一時期はダイヤしか売れなかったから、注目してもらえて嬉しいよね」
客足の途切れた午後。
店長とのんびり会話をしていると、会場の入り口付近が急にざわつき始めた。
人の流れが不自然に止まり、入り口から真っ直ぐに伸びる通路の空気が、一瞬にして張り詰める。
真っ黒なスーツを着こなした数人の取り巻きを引き連れ、一人の男が入場してきた。
その姿が視界に入った瞬間、周囲の店員や客たちが色めき立ち、ひそひそと囁き声を交わし始める。
蒼乃は心臓が口から飛び出しそうなほどの激しい衝撃を受けた。
ーー昂輝だ。
まさか。そんなはずはない。
御堂ジュエリーが質屋の展示を見に来るなど、万が一にもあり得ないと思っていた。
全身の血の気が引いていく。
反射的に身体が動き、大黒堂のショーケースの陰へと滑り込むように、蒼乃は、身を隠した。
コツ、コツ。
ざわめきを気にするそぶりもなく、昂輝はまっすぐと歩く。
硬質な革靴の音が近づいてきた。
昂輝が、蒼乃のいるブースのすぐ横を通り過ぎようとしている。
蒼乃はマスクの下で完全に呼吸を止め、床の一点を見つめて目を伏せた。
彼の纏う、温度のない硬質な気配が皮膚を刺す。
もし今、彼がこちらを振り返り、自分の姿を捉えたら……。
そう考えただけで、背中を冷たい汗が音もなく伝い落ちた。指先が凍りついたように動かない。心臓の音だけが、耳の奥で狂ったように暴れていた。
だが、その鋭い足音は立ち止まることなく、そのまま会場の奥へと去っていく。
気付かれなかった。