隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~

第12話:助けて



「お宅は、いったいどういう教育をなさっているの!」


 保育園の応接室。
 張り詰めた空気の中に、突き刺さるような鋭い声が響き渡った。

 仕事を無理やり切り上げて駆けつけた白河蒼乃は、パイプ椅子の前で、激昂して肩を震わせる相手の母親の前に立っている。

 心臓がどくどくと脈を打ち、手汗がにじむ。

 蒼乃はただ、その場に深く腰を折るしかなかった。


「大変、申し訳ありません」


 何度目か分からない謝罪の言葉が、自嘲気味に喉の奥から転がり出る。

 隣の椅子には、四歳の輝がぽつんと座っていた。
 小さな頬には痛々しい引っかき傷があり、急いで処置された白いガーゼが痛ましい。


 泣きすぎて真っ赤に腫れ上がった顔のまま、輝はきゅっと唇を噛み締め、頑なに床の一点を見つめて口を閉ざしている。



 事の発端は、先日も揉めたクラスの男の子との再戦だった。

 『お前、パパがいないんだろ』という言葉を向けられた輝が、我慢の限界を迎えたように、先に掴みかかってしまったのだという。


「本人に謝らせてくださいよ。もう四歳ですから、悪いことをしたとわかる年齢でしょう!」


 相手の母親は、蒼乃の頭頂部に向け、なおも言葉を浴びせかける。

 双方の間に立っていた園長先生が、相手の母親を落ち着かせるような声を出す。


「お母さま、少し落ち着いてください。輝くんも怪我をしているんですよ」
「何よ、じゃあうちの子が悪いって言うの? 秀明は、血が出たのよ!」


 輝は相手の男の子の腕をつねった。そのときに、爪が食い込み、少しだけ血が出てしまったのだ。

 男の子の腕には絆創膏が貼ってある。

 もちろん、報復として引っかかれた輝の頬にも、彼の爪痕が残されている。しかし、血は出ていない。


 担任の陽介もまた、母親を落ち着かせるように言った。


「お母さま、そもそもですね、日常的に輝君をバカにしたような発言をしているのは……」
「貴方まで何なの。うちの子は本当のこと言っただけじゃないの! それにその子は嘘をついたんでしょう。嘘つきが容認されるだなんて、おかしいわ!」


 嘘つき――その言葉が、蒼乃の胸を鋭く抉る。


 輝は嘘をついたのだ。

 『ぼくにもパパがいる!』と、涙を流しながら叫んでしまったのだと、先ほど別の保育士から聞いた。


 毎日毎日、父親がいないことをつつかれ、この小さな胸にどれほどの痛みが降り積もっていたのだろう。

 どんなに寂しく、どんなに悔しい気持ちで、そのありもしない言葉を叫ばなければならなかったのか。

 それを考えると、蒼乃は目元が熱くなるのを抑えられなかった。








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