隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
昂輝は静かに息を吐くと、ポツリポツリと話し始める。
五年前の、及川工房の買収。その裏側には、あまり良くない企業との攻防戦が隠されていたという。
当時、別のジュエラーが……大きな企業ではあるが良い噂の少ない会社が、及川の持つ卓越した研磨技術を安値で買い、全てを奪い取ろうと裏で画策していたのだと、昂輝は話した。
くだんの企業は、祖父がはじめに借り入れを行ったあの地銀と、結託していたのだという。
及川工房近辺の動きがおかしい。
それを察知した昴輝が、御堂ジュエリーの力を使う。
先手を打って強引に工房を買い取ることで、他社の介入を防ぎ、結果的に及川の技術を守ろうとしたのだと。
「……あのままにして置いたら、及川さんは身ぐるみはがされて、あの素晴らしい技術を死ぬまで搾取されただろう。どうしても、それだけは阻止したかった」
「だったら……」
蒼乃が膝の上で拳を握る。
手も、声も震える。
「だったらどうして、そう言ってくれなかったの?」
車まで追いかけた。騙していたのかと、問いかけた。
しかし昂輝は否定することなく、ただ、もともと買収対象として見ていたと告げ、東京へ帰って行った。
「言えたはずでしょう、あの時。工房のためだって、あの時説明してくれていたら……」
そうしたら、蒼乃だって話を聞いた。
勝手に判断して逃げることなどしなかった。
どんな事より、昂輝の言葉を信じたはずだ。
なぜなら、誰よりも、彼を信じたかったのだから。
「ごめん。誰が聞いているかわからない状況で、説明ができなかったんだ」
銀行員。信用金庫。街金の取り立て。
誰がどこまで事情を把握し、組んでいるのか。それがわからない。
「御堂ジュエリーの社員も同じだ。実際あの後、うちの情報を銀行側にリークしようとしていた者を二人、首にしている」
足を引っかけようとする者は、案外近くにいる。
そんな状態で話して良い内容ではないと、あの時の昂輝は判断した。
敵か味方か分からない人間が周囲にいる状況では、蒼乃に詳しい説明ができなかったのだと、昂輝は詫びた。
巨額の金が動く、宝石業界の薄汚い事情。
研磨師の工房とジュエラーは、近いようでいて、案外離れている。
どの会社が安心できて、どの会社は厳しいのか。どの会社との付き合いは問題なく、どことの付き合いを断るべきか。
職人同士、できる限りの情報は共有する。
しかし、銀行と結託した乗っ取りなど、画策されたら察知のしようがない。