隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
 及川さん。



 祖父を指すその言葉が、蒼乃の胸の奥を大きく抉る。


 昂輝の手から逃げることだけを考え、子供を守ることだけを考え、必死に過去を振り切って走ってきた五年間。

 けれどそのために、自分を深い愛情で育んでくれた祖父との関係も絶たなければならない現状にも、心を痛めてきた。

 祖父は、何も知らないまま孫に失踪された祖父は、いったいどんな気持ちで五年を過ごしたのだろうか。


 自分は、どれだけ、酷いことをしてきたのだろう。



 蒼乃はその残酷さに、今更ながら愕然とした。

 脳裏には、工房が買収された後に、書類を整理していた祖父の小さな背中が浮かぶ。

 工房が他人の手に渡り、理由も分からないまま孫がいなくなり、どれだけ寂しく心細い思いをしてきたのだろう。


「お、じいちゃん……っ」


 堰を切ったように、蒼乃の目から涙が溢れ出た。

 声にならない嗚咽が喉を突き上げ、蒼乃は泣きじゃくる。

 輝を救えた安堵と、祖父への申し訳なさ、そして昂輝への複雑な感情が混ざり合い、身体の震えが止まらない。


 昂輝は何も言わなかった。


 静かに椅子から腰を浮かせると、泣き崩れる蒼乃の背中に、そっと大きな手を添えた。そして、何も求めない優しさで、だまってその背をさすり続けた。

 手のひらから伝わる温もりが、冷え切った蒼乃の身体にゆっくりと染み渡っていく。

 重なり合う後悔の重さに耐えながらも、蒼乃の耳には、五年の間止まっていた時計のぜんまいが、ゆっくりと回り始める音が聞こえたような気がした。
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