隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~

第14話:決意



 青白い夜明けの光が、カーテンの隙間からアパートの室内にそっと差し込んでいる。


 点滴のお陰で高熱の引いた輝を、昂輝は自身の両腕の中に大切そうに抱えたまま、白河家まで運んでくれた。

 彼は慣れない手つきで、しかしガラス細工でも扱うかのような慎重さで、輝を布団へと寝かせる。
 そのまま、眠る輝の顔を、愛おしそうに眺めた。


 昔、あの顔を見たことがある。

 出会ったときに、それから一年ほどの交際期間に、何度も蒼乃へと向けられた視線だ。

 いや、それよりももっと、柔らかな空気を含んでいるかもしれない。

 蒼乃はその姿を、ただ、見つめることしかできない。


「蒼乃も疲れただろう、ゆっくり休んで」


 昂輝は立ち上がり、上着を着ながら声を落とした。


「……あ、お茶でも」


 そう言いかけたが、瞬時に昂輝は首をふる。

 そして、蒼乃を見つめた。

 その切れ長の両眸には、百貨店ですれ違った時の感情の揺らぎのない険しさはない。
 温かな気遣いと、ほんの少しの迷いが浮かんでいる。


「……今度、改めて連絡してもいいか?」


 躊躇いがちに、けれど目の前の糸をどうしても繋ぎ止めたいという切実な響きが、その声には含まれていた。


 拒絶する言葉など、一つも思い浮かばない。

 蒼乃は、差し出された彼のスマートフォンに、自身の番号を打ち込んだ。

 端末を返す際、指先が微かに触れる。

 一瞬、互いにそれを味わいながら、名残惜しそうに離した。


 扉が閉まる。

 蒼乃の手には、スマートフォンの無機質な感触と、五年ぶりに触れた昂輝の指先の温もりが、そっと残された。






 静まり返った部屋で一人、蒼乃は畳に座り込み、昂輝が語った真実を何度も反芻していた。

 工房を守るための買収。

 あの話のすべてを、今すぐ信じていいのかは分からない。


 自分は裏切られたのだと思っていた。五年前に感じたあの時の痛みは、胸の奥にまだトゲを残している。

 しかし、なりふり構わず夜道を疾走した彼の広い背中と、あの必死な声色だけは、決して偽物とは思えなかった。



 もし、自分の思い込みだったとしたら……

 もしも昂輝の話が本当だったら、何ということをしてしまったのだろう。



 彼から逃げ続けることで、輝から父親という存在を奪った。

 そして昂輝から、自分の息子と過ごせた時間を、あの子の成長を見守る権利を奪ってしまった。


 独りよがりな正義感が生んでしまったかもしれない空白の重さに、激しい自己嫌悪が津波のように押し寄せる。

 手先が冷たくなり、胸が締め付けられるように痛い。



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