隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「工房は、どう?」
「どうもこうも、変わらんよ。職人たちはそれぞれの腕に沿って修行。わしは好きに仕事をさしてもらっとる」
祖父の言葉は嘘のない声だ。
本当に、自由にさせてもらっているのだろう。
「いやあ、わしもこれで終わったと思っておったが、御堂さんが『今まで通りにしてくれていい』とね。もちろん、御堂ジュエリーからの仕事がメインになっとるが、それさえ終われば、特に何も言われん」
祖父は、自分で石を買い付け、好きに磨くタイプの職人だ。
市場に並べ、ジュエラーだろうが個人だろうが、気に入った客に売る。
生活のために薄利多売の研磨を請け負う時期もあったが、後年、職人を複数人抱えるようになってからは、後進を育てつつ、自分は好きにすることが多かった。
それをそのまま、継続しているらしい。
「何か、嫌な仕事を押し付けられたり……」
「ない。やるべき量は決まっとるが、それは元から変わらん」
「不当に安く買われたりとか」
「ない。あの御堂さんは、石の価値をよく知っとるの。そりゃたまには意見がぶつかることもあるが、価値の測り方はそうわしと変わらんな」
祖父はあっさりと首を振った。
蒼乃が心配していた事など、現実には、一つも起こっていない。
その事実に、あっけに取られてしまう。
「じゃあ、困っていることとか……」
「それは、ある。唯一困っているのは、孫と五年も連絡が取れないことだ」
喉が詰まる。
五年間の呪いのような誤解が、拍子抜けするほど綺麗に消え去っていく。胸を締め付けていた痛みが消え、温かな安堵がじわじわと広がった。
「まあ、お前が『元気でいろ』と言ったからの。元気でいれば会えると、信じておったよ」
祖父は立ち上がると、炊事場へと向かう。
輝のために沸かしてくれていた牛乳をコップへ注ぎ、戻ってくる。
「ほれ、熱いからよく気をつけなさい」
「ありがとー」
輝が受け取るのを見て、祖父がほほ笑む。
蒼乃は、その背中に抱きついた。
「お祖父ちゃん」
「あーもう、蒼乃も母親になったんだから、そうびいびい泣くな」
祖父は照れくさそうに笑いながら、新しい手拭いを蒼乃に渡した。