隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~



 昼食を終えると、工房の二階へ上がる。及川家の自宅だ。

 緊張の解けた輝は、アパートよりずっと広い及川家の探検に大興奮だった。広い和室や長い廊下を歩き回る。


「ひいじいのおうち、おっきいね!」
「バタバタ走らないのよ」
「ぼく、おにわであそびたい」


 窓へ駈け寄った輝が、庭を見下ろしながらはしゃいだ。



 陽の光が優しく降り注ぐ庭の隅で、輝はしゃがみ込む。

 少し湿った空気の名残を残す珍しい形の葉っぱや、キラキラと光る小さな石を拾い集め始めた。


「ママ見て。これ、せかいいちきれいな石」


 誇らしげに小さな手のひらを差し出してくる。

 その無邪気な笑顔を見つめながら、蒼乃の心は、複雑な気持ちでいっぱいだった。


 騙されたと思い、飛び出した五年前。

 しかし昂輝が話した通り、彼は本当にこの工房を守ってくれていたのだ。この穏やかな祖父の場所を、大切にしてくれた。



 静かな山間に、少し大きな、車のエンジン音が響いた。

 音は通り過ぎることなく、砂利を激しく蹴立て、門をくぐって敷地内に滑り込んできた。

 見覚えのある車。
 昔、何度も昂輝に乗せてもらった、シルバーグレーのセダンだ。


 ブレーキ音と共に、運転席のドアが勢いよく開く。

 車から降り立ち、息を切らしながらこちらへ猛烈な勢いで駆け込んでくる人影があった。


 上着のジャケットも羽織らず、コットンシャツの袖を腕まくりしたその姿は、五年前に研磨体験へ来たときのような、飾り気のない昂輝だ。



 互いの緊張感が、静かな庭に満ちる。

 昂輝は庭の真ん中でピタリと足を止め、立ち尽くした。額にはうっすらと汗がにじみ、幾筋かの髪が額に張り付いている。

 東京から山梨のこの場所まで、どれほどの速度で車を飛ばしてきたのか。その青ざめた横顔を見れば一目で分かった。

 蒼乃は言葉を失い、ただ目を見開いて立ち尽くす。


「昂輝、どうしてここに?」


 掠れた声でどうにか問いかけると、昂輝は動揺を抑えるよう胸に手を置き、一歩だけ、足をこちらへと踏み出した。


「……お、及川さんから連絡を貰って」


 かすかに震える声でそう答えた昂輝の目は、驚きと喜び、そして言葉にできないほどの熱をはらんで蒼乃と輝を捉えた。


 その強い眼差しは、焦がれるような色を帯びている。

 雲間から射し込んだ陽の光が、あたたかく、祝福するように三人を照らした。
< 69 / 112 >

この作品をシェア

pagetop