隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
第16話:喧嘩両成敗
蒼乃は、言葉を失って立ち尽くす。
すると、彼女の背後から小さな気配が鋭く飛び出してきた。
輝だ。
輝は、小さな身体をこわばらせて蒼乃の足元に立ちはだかると、蒼乃のジーンズの裾を小さな両手でぎゅっと握りしめた。
小さな肩をいからせ、精一杯の敵意を込めて昂輝を睨みつける。
眉間にこれ以上ないほどの皺を寄せ、小さな唇を真一文字に結んだその表情は、まるで小さな騎士のようだ。
輝の記憶には、蒼乃が涙を流しながら怯えていた光景がありありと焼き付いているのだろう。
目の前にいる男は、大好きなママを泣かせた張本人なのだと、幼い息子は知っている。
蒼乃は、輝の小さな身体から伝わってくる緊張と、自分を守ろうとする健気な気持ちを感じ取り、胸が締め付けられた。
自分の不安や恐怖が、この子の心に影を落としていたのだ。
蒼乃はしゃがみ込み、輝の尖った肩に手を置いた。
「輝、そんなぷんぷんしないで。大丈夫だから」
「だってママさ、あのおじちゃん、こわいおじちゃんだよ?」
輝の声は低く震えており、昂輝から一瞬たりとも目を離そうとしない。
輝の返事を聞いた昂輝の顔が、痛ましげに歪んだ。かける言葉を見つけられないまま、唇を震わせている。
蒼乃は輝の小さな手を包み込むように握り、諭すように、そして自分自身に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「あのね、輝。ママちょっとだけ勘違いをしていたの。あのおじちゃんは、本当は怖い人じゃなかったのよ」
輝は完全に納得がいかないという風に、なおも不満げな顔で昂輝を睨み続けている。
張り詰めた空気が庭を支配する。
三人とも、身動きが取れない。
「おおい」
そこへ、工房の開け放たれた格子戸の奥から、しわがれた、けれどよく通る、あきれたような声が響いた。
「そんなところに立ってないで、中に入りなさい」
祖父だ。
少しぶっきらぼうなその声に、庭を満たしていた緊迫感がわずかに綻ぶ。
蒼乃は小さく息を吐き出し、輝の手を引いて歩き出した。
昂輝もまた、弾かれたように深く一礼すると、重い足取りで二人の後ろに続いた。