隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~




 シルバーグレーのセダンは、昔と変わらない乗り心地だった。


「車、買い替えてないのね」
「うん。……この車には、蒼乃との思い出が詰まってるから」


 この車に乗せてもらって、デートをした。

 昇仙峡や、県内のワイナリーへ行った。
 初めて東京まで一緒に行ったときもこの車だったし、北陸の方へ温泉旅行をしたときも、彼が運転してくれた。

 全部、覚えている。
 

「……坂を降りたところのスーパーまで、お願いします」
「ああ、分かった」


 昂輝は慎重にアクセルを踏み込み、ゆっくりと車を走らせる。

 山道の緩やかなカーブをいくつか曲がっていく途中、昂輝がふと、見晴らしの良い展望スポットの路肩に車を滑り込ませ、ハザードランプを点滅させた。


「昂輝?」


 彼はエンジンを止めると、蒼乃を見た。



「外で、少し話そう」


 外へ出ると、素早く助手席側へ回り、ドアを開けてくれる。

 昔と同じ彼の動きに、蒼乃も引き寄せられるように外へと出た。


 眼前に広がる山並みは、明るい陽に照らされ、緑の色が際立って美しく見える。

 
「いい景色だな」


 昂輝が、遠くの稜線を見つめたまま、ぽつりと言った。

 言葉を探しながら、ゆっくりと話す。


「急に尋ねてきてごめん。及川さんが『蒼乃が来たから今すぐ来い』って連絡をくれて」
「祖父に話したの? 私たちのこと……」


 蒼乃の問いに、昂輝は首を振る。


「でも時々、蒼乃の話をしていたんだ。『連絡はまだない』とか『河口湖の工房へ行ったけど、いないみたいだ』とか。二人で探してた。だから、ひかるくんの顔を見て、その理由に気付いたんじゃないかな」


 二人で、探していた。

 その言葉が、蒼乃の鼓膜を優しく揺らす。

 自分が恐れていたはずの彼は、自分を心配し、祖父と共に、ずっと行方を探し続けてくれていたのだ。

 その事実に触れた瞬間、蒼乃の目から、ぽろぽろと涙が溢れ出た。
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