隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
視界が揺れる。
「昂輝……ごめんなさい。私、お祖父ちゃんの工房を見て、やっとわかった。昂輝が言っていたのは、本当のことなんだって」
涙を拭おうともせず、声を震わせる蒼乃を見て、昂輝は一歩近付く。
しかし触れるのを躊躇うように、伸ばしかけた手を止めた。
彼の顔には、深い後悔の念が刻まれている。
「いや、謝るのはこっちの方だ。及川工房のためだと思って動いていたけど、蒼乃が誤解をしても仕方のない状況だった。たくさん傷つけて、苦しい思いをさせて、本当に申し訳ない」
昂輝の声もまた、微かに震えていた。
その痛々しいほどの誠実さを前にして、蒼乃は決めた。
全て話すのだ。
自分の気持ちも、なぜ逃げなければいけないと思ったのかも。
察してもらうのではダメだ。自分の口から、きちんと話さなければならない。
「ううん……私も、ちゃんと話せばよかったの。でも、混乱していて……あのね、輝が」
溢れる涙を手の甲で拭いながら、蒼乃は言葉を繋ぐ。
「あの子がお腹にいるって、分かって……。言うつもりだったの。昂輝と約束していた日に、会って、直接話すつもりだった。でも、工房に昂輝がいて……」
あの日の記憶が蘇る。
肩を落とした祖父。
工房の権利書を手にしていた昂輝の姿。
全財産をおろした封筒を、ポケットの中で握りしめた日。
「逃げなきゃって。工房だけじゃない、子供のことも、何かに利用するんじゃないかって……それにもし、子供をおろせって言われたら、私……」
喉の奥が震え、息が切れそうな胸を必死に押さえる。
「あの子を守らなきゃって、それしか考えられなくて……ごめんなさい」
言い終えると同時に、擦れた嗚咽が漏れる。
傷つけられたから逃げたわけではない。
我が子を奪われるかもしれない、自分の中にある小さな命を失うかもしれないという、むき出しの恐怖が蒼乃を突き動かした。
昂輝は、まるで己の罪の深さに射すくめられたように立ち尽くしている。
それから昂輝は、何かを振りほどくように、蒼乃の震える両手をそっと包み込んだ。
彼の大きな手は、冷たい。そして、細かく震えている。
「蒼乃、俺たち、もうだめか?」
すがるような、弱々しい声が、蒼乃の鼓膜を揺らした。