隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
工房の奥から、大きな湯呑みを抱えた祖父の匠が、ずいと顔を出した。
エプロンには水が跳ねている。
輝と一緒に、研磨機を回してくれたのだ。
祖父は昂輝と蒼乃の様子を交互に見やると、低く笑い声を上げた。
「なんじゃ、皆そろいもそろって同じことを言うの」
気の抜けたような祖父の言葉に、蒼乃は目を瞬かせた。
「皆って、私と輝でしょ」
「いやあ、御堂さんも子供のころに同じことを言っておった。なあ、御堂さんや」
祖父の視線が昂輝へと向かう。
話を振られた昂輝は、急に子供のようにきまり悪そうな顔になり、シャツの襟元に手をやった。
「あ……ええ、まあ」
「え、そうなの?!」
驚きのあまり声が裏返る。昂輝の口から、そんなメルヘンチックな言葉が出ただなんて信じられない。
彼は、少し照れながら語った。
「子供の頃、及川さんが磨いたダイヤを見たんだ。それですごく魅せられちゃって……『あのダイヤを磨いた人に会いたい』って、親父に頼んで連れてきてもらったことがあるんだよ」
祖父は休憩室の座卓に湯呑みを置くと、懐かしむように目を細める。
当時から頑固で鳴らした祖父だったが、子供には優しかった。
特別に昂輝を研磨機の前へ座らせ、一緒に石を磨いてくれたという。
その時、祖父は昂輝に教えた。
『石の声を聞きなさい。石が教えてくれる』
祖父が石の結晶の方向を指先で探り、石を輝かせる。子供だった昂輝は『おじさんは魔法使いだ』と言ったらしい。
「どうして話してくれなかったの?」
蒼乃は昂輝を振り返った。昂輝は驚きと混乱の入り混じった表情で、何度も瞬きを繰り返している。
「いや、だってまさか及川さんが蒼乃のお祖父さんだなんて思いもしなかったから……」
「何だ、蒼乃は覚えとらんのか?」
「え、あ、じゃあもしかしてあの時いた女の子……」
「そうじゃ、蒼乃じゃよ」
話が飲み込めない。
「工場にいる間中、お前が御堂さんの後ろにくっついて回ってな。石についてアレコレと説明をして邪魔しとったろう」
「いえ、邪魔だなんてそんなことは」
慌てたような声で、昂輝は否定するが、まあ、邪魔をしたのだろう。
昂輝の視線が、祖父から蒼乃へとゆっくり移る。
遠い日の記憶のパズルが、音を立てて噛み合っていくように、彼の表情が明るくなっていく。
祖父が可笑しそうに笑った。
「あの子、蒼乃だったのか」
「覚えてない」
蒼乃は素直に首を傾げた。
幼い頃の工房の風景は覚えているが、そこにどんな男の子が来ていたかまでは、記憶の霧の向こう側だ。
「蒼乃は、すごく小さかった」
昂輝は、自分自身に言い聞かせるように呟いた。その声は、深く震えている。
蒼乃は、目を細める昂輝の顔をじっと見つめた。
知らなかった。自分たちの絆は、五年前の出会いよりもずっと前から、この山梨の土の上で静かに始まっていたのだ。
「俺が、小学校の二年生の時だよ」
「じゃあ、私は年中さんだわ」
「ぼくもねんちゅうさん!」
祖父の膝の上にいた輝が、突然大きな声で主張した。
三人の笑顔がこぼれる。
部屋には、昔からそこにあったかのような、穏やかで温かい時間が流れた。
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