隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~


 静かな排気音を響かせ、一台の黒い高級外車が、蒼乃の歩く道路の脇に滑り込んできた。

 磨き上げられた漆黒のボディが、夕暮れの街並みを歪に跳ね返している。その有無を言わせぬ存在感に、蒼乃は思わず足を止めた。


 後部座席のドアが滑らかに開き、一人の女性が地面に足を下ろす。

 蒼乃は、息を呑んだ。

 仕立ての良い、淡いベージュのワンピース。非の打ち所がないほど整えられた艶やかな黒髪が、午後の太陽を反射してきらめいている。

 まるで高級百貨店のショーケースからそのまま抜け出してきたかのような、完璧に調律された美しさを持つ女性だった。

 彼女は、迷いのない足取りで真っ直ぐに蒼乃へと近づいてくる。

 その顔には、微笑が浮かんでいた。


「こんにちは、白河蒼乃さん」


 鈴を転がすような、軽やかな声だ。

 蒼乃は身を固くし、初対面の相手に対する戸惑いを隠せないまま、声を絞り出す。


「こんにちは」
「そんな顔なさらないで、大丈夫、私たち初対面だわ。私、七井晶子(なないしょうこ)と申します」


 七井、晶子。

 聞き覚えのない名前に、蒼乃の眉がわずかに動く。


「なぜ、私のことを?」
「もちろん、よく存じ上げていますわ。だって私、昂輝さんの婚約者だもの」


 蒼乃の肺から、一瞬にして空気が抜けていく。夕暮れの街並みが歪み、足元が揺れる。

 婚約者。

 聞き間違いだろうか。

 頭の中では、昂輝が「やり直したい」と請うてきたときの、あの声が繰り返される。


「夫になる人のことは、何でも知っていて当たり前でしょう?」

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