隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「俺も行ってくる。ここの開けたところで待ち合わせな」
そう言って、昂輝は一般のトイレの方へと歩いていった。
蒼乃は輝の手を引き、混み合う多目的トイレへと向かう。
用を済ませ、外の開けた場所にある手洗い場で輝の小さな手を洗ってやる。
輝が、不意に何かに目を留め、蒼乃の手をすり抜けて駆け出した。
「ぼく、あれみたい!」
広場の向こう、観光イベントのために立っていた大きな着ぐるみのキャラクターを見つけたらしい。
短い足を一生懸命に動かして走っていく。
「ダメよ輝。ママも一緒に行くから!」
蒼乃が慌てて泡を洗い流す。
鞄からタオルを取り出しながら輝の方へと目をやる。
その時だ。
人混みの隙間から、帽子を深く被った見知らぬ男が、ものすごい速さで輝との距離を詰めた。
男は制止する蒼乃の目の前で、輝の小さな身体を横から乱暴に抱き上げる。
輝の短い悲鳴が響く。
「ひかる!」
通路の脇に、エンジンをかけたまま不自然に停車していた白いワゴンがある。男は、その後部座席へ、輝を力任せに押し込んだ。
蒼乃の喉から、裂けるような悲鳴が上がった。
全身の血が逆流し、視界が真っ赤に染まる。
「誰か!!」
叫びながら男を追いかけようとしたが、恐怖で足がもつれ、アスファルトに激しく膝を打ちつけた。
男も乗り込もうと身体をねじ込み、車のドアが閉まりかける。
輝が連れ去られる。
絶望が蒼乃を支配した。
「ひかる!!」
もう一度叫ぶ。
すると、猛烈な風が蒼乃の横を吹き抜けた。
昂輝だ。
彼は、凄まじい速度でワゴン車へと突進する。
車が急発進しようとしたその刹那、昂輝は半開きになっていた後部座席のドアに手をかけ、有無を言わせぬ腕力で閉まるのを阻止した。
彼は車内に無理やり身体を押し込むと、輝を抱え込んでいた男を車外の地面へと激しく引き摺り出した。
そのままの勢いで輝を掴み出し、腕に抱いたまま車を飛び降りる。
「な、てめえ!」
引き倒された男が怒号を上げ、昂輝の顔面に向けて拳を突き出す。
鈍い衝撃音が響く。昂輝の頭が殴られた。
しかし、昂輝は声を上げることもせず、自分の腕の中に抱え込んだ輝に覆いかぶさるように伏せた。背中で盾となる。
「あっちです!」
「おい、何をしてる!」
誰かが叫ぶ声と、ホイッスルを鳴らしながら警備員が駆けつけてくるのが見えた。
男は慌ててワゴンの助手席へと飛び乗る。車は激しいスキール音を残し、混雑する駐車場を縫うようにして猛スピードで逃走していった。
「輝っ!」
蒼乃は二人の元へ、這うように駆け寄る。
昂輝が、息を荒くしながら腕の中の我が子を強く抱きしめていた。
「ま、ママぁぁあああ」
激しい恐怖に怯えた輝が、大粒の涙を流して激しく泣き出す。
「こ、昂輝が、けが……」
昂輝の額の生え際から、鮮紅色の血がタラリと流れ落ち、彼の白い頬を汚していた。
その傷の深さに蒼乃の身体の震えが止まらない。
「俺はいい。輝が怪我をしていないか、見てくれ」
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