隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~


「疲れたろう、もうすぐ着くからな」


 昂輝が、額に白いガーゼを貼った痛々しい姿で言った。

 あの後、サービスエリアの管理事務所に警察が到着し、長時間の事情聴取が行われた。

 防犯カメラの映像から割り出した犯人グループの車は偽造ナンバーであり、現場の混雑もあって足取りを掴むのは容易ではないという。


 幸いにも、昂輝の頭の傷は深くない。

 ある程度の事情聴取が終わったところで、水族館は中止となり、帰路へと着いた。


 アパートの前に車が止まる。

 昂輝が、輝をそっと抱き上げてジュニアシートから降ろす。輝は恐怖が残っているのか、ぎゅっと昂輝の手を握ったまま離さない。


「お家で、ゆっくり休みましょうね」


 蒼乃も、輝を安心させるため、無理やりに明るい声を振り絞る。アパートの狭い階段を上っていった。

 息を整えながら、自分の部屋の前に立つ。

 蒼乃はバッグから鍵を取り出し、ドアノブに差し込んだ。



 カチリと鍵が……から回る。


 嫌な予感が、再び脳裏をよぎった。

 閉め忘れたのだろうか?

 いや、そんなことはない、子供がいるのだ。いつも戸締りには気を付けている。


 ドアノブに触れた瞬間、妙な違和感が指先から伝わってきた。

 蒼乃は息を呑みながら、ドアをゆっくりと引く。


「……あっ」


 短い悲鳴が、蒼乃の喉から漏れ出た。


 部屋は、見る影もなく荒らされている。

 引き出しはすべて引き抜かれて床に散らばり、輝の絵本や図鑑は引き裂かれ、押入れから出された衣類は踏みにじられていた。

 めちゃくちゃだ。


 輝が震えながら、蒼乃の足元にしがみついてくる。
 
 その小さな身体を、昂輝が横から素早く、その逞しい腕で包み込むように抱きしめた。腕の中に輝を閉じ込める。これ以上の凄惨な光景を見せないようにするために。


「警察を……」


 昂輝の低い声が、怒りと緊迫感をはらんで部屋に響く。


 蒼乃の脳裏に、あの女の、硝子のような瞳が鮮明に浮かび上がって、消えた。
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