冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
 翌日、千恵は人の声で目を覚ました。

「……分かった、明日には出発しよう。……それも仕事のうちだ」

 声の方に目をやると、篤史がベッドの縁に腰掛けて誰かと電話をしていた。
 黙って起き上がろうとすると、篤史がこちらを振り返り「また連絡する」と電話を切った。

「おはよう、起こしてしまったか?」
「おはようございます。ちょうど起きたところですよ」

 篤史は千恵の額に口づけすると、少し困ったように微笑んだ。

「何かあったのですか?」

 いつもならすぐに答えてくれるのに、彼はしばらくの間、千恵を見つめていた。

「篤史さん?」
「……急なんだが、明日から海外出張に行くことになった。しばらくは帰れないだろう」
「そんなに長いのですか?」
「半年で帰れるかどうか……。プロジェクトが落ち着くまでだな。一時帰国が出来るかも分からない」

 篤史の声にはいつもより力がなかった。
 彼の瞳が揺れているのを見た千恵は彼の両腕を掴んだ。

「私、この指輪をずっと身につけています。篤史さんが帰ってくるまでに、食べきれないくらい料理を覚えます。連絡もいっぱいします。だからっ……!」

 千恵の目から涙が頬に落ちる。
 しばらく彼と会えない寂しさと、彼を元気づけたい気持ちと、自分の無力感がごちゃ混ぜになっていたが、それを振り払うよう必死に言葉を紡いでいた。

「俺も、この指輪を肌身離さずつけておこう。ははっ、買っておいて良かった」

 二人は指輪をした手を絡ませて強く抱きしめ合った。

「明日、行ってしまうんですね」
「あぁ」
「ずっと待ってますから」
「あぁ」
「今日はギリギリまで一緒にいたいです」
「……あぁ、そうしよう」

 二人はチェックアウトの時間を延長し、残された時間を取りこぼさないようにずっと寄り添いながら過ごした。


「そろそろ帰ろうか」
「はい……」

 ホテルを出て千恵のアパートに着くまで、二人の間には沈黙が流れていた。
 この幸せな時間がもうすぐ終わってしまう。
 そう思うだけで千恵の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。

(たった半年だけ。こんなに泣いたら呆れられてしまう……)

 車がアパートの前で止まると、篤史が千恵を見てふっと微笑んだ。

「そんなにも思ってもらえるなんて、俺は幸せだな」

 彼の指が千恵の涙を拭う。そのまま頬に手を添えられた。

「仕事が落ちついて日本に戻ってきたら、結婚しよう」

 思わぬ言葉に涙も引っ込んでしまう。

「本当は帰国してから言うつもりだったんだが……千恵の顔を見たら言いたくなってしまった。嫌だったか?」
「そ、そんなわけないです……! 嬉しくてっ」

 そう言った途端、唇をふさがれる。
 篤史がそっと離れた時、千恵の顔つきは晴れやかなものになっていた。

「行ってらっしゃい。帰りを待ってます」
「あぁ、行ってくる。すぐに帰るよ」

 車を降りた千恵は、彼の車が見えなくなるまでその場から動かなかった。

(篤史さんが帰ってくるまで、私も頑張ります)

 今日という日を目に焼き付けながら、心の中で誓いを立てるのだった。


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