冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
「千恵ちゃん、今日はお通しを一つ作ってみない?」
「え? ……私がですか?」
「大丈夫。簡単なやつだし、ちゃんと教えるから」

 明美「どうかしら?」と尋ねながら千恵に割烹着を差し出す。
 思わず受け取った千恵がコクリと頷くと、明美の表情がパッと華やいだ。

「よしっ、じゃあ冷蔵庫から茄子を出してくれる?」
「はい」

 明美はぴったり千恵に寄り添って、一から全てを丁寧に教えてくれた。
 最初は緊張していた千恵も、明美の柔らかい指導のおかげで料理に集中することが出来た。

「じゃあこれを全部ガラス容器に移したら完成よ」
「はい……で、出来た」
「味を馴染ませた方が美味しいから、遅い時間に来た人に出すわね」

 明美が料理を冷蔵庫にしまうのを見ながら、千恵の心臓は少しだけドキドキと高鳴っていた。

(お客様に食べてもらうの? 緊張する……)

 店が開店した後も、今日はずっとそわそわしていた。


 夜九時を過ぎた頃、ちょうど客足が途絶えたところで明美が「千恵ちゃん」と口を開いた。

「次に来たお客様に千恵ちゃんのお通し出してみようか」
「は、はい!」

 千恵が返事をするのと同時にガラガラと扉が開かれる。

「いらっしゃい。あらー久しぶりね」

 明美の明るい声に出迎えられた客は、千恵より少し年上くらいの男性だった。
 上品なミディアムグレーのスーツを着こなしている彼は、意志の強そうな切れ長の奥二重の瞳と薄い唇が印象的だ。
 明美の声に彼は険しい表情を少しだけ和らげた。

「少しだけ時間が取れたんで」
「忙しいのね。千恵ちゃん、お水とおしぼりお出しして。お通しもね」

 明美が千恵にだけ見えるようにウインクをする。
 千恵は緊張しながら男性にお通しをお出しした。

「ど、どうぞ。茄子と鶏肉の焼きびたしです」
「どうも」

 彼は千恵に軽く会釈をすると、ぱくりとお通しを口にした。

(味、大丈夫だったかしら?)

 見つめるのは悪いと思いつつ、千恵は男性の表情をこっそりと観察した。
 彼はゴクンと茄子を飲み込んだ後、満足気に口角を上げた。

「美味いな」
「そうでしょー? 千恵ちゃんが作ってくれたのよ。ふふっ、デビュー作なんだから」
「そうなのか?」

 不意に男性から視線を向けられ、顔が熱くなる。

「お、お口に合いましたでしょうか?」
「あぁ。また食べたいくらいだ」
「ありがとうございます! 嬉しい……」

 千恵が安堵したように微笑むと、男性も笑顔を見せた。

「緑川さんはね、若いけど見る目はあるのよ」
「明美さんにそう言われると悪い気はしないな」

 明美も上機嫌だ。サービスだと言いながら彼に日本酒を渡している。

(緑川さんって言うのか)

 それが千恵と緑川篤史(みどりかわ あつし)との出会いだった。


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