冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
 篤史は小料理屋まごころの常連らしく、夜遅くにふらっとやって来ることが多かった。酒は一杯程度しか飲まず、食事を楽しんむ彼は、よく千恵の料理を褒めてくれた。

『これ気に入った』
『味がしみてて最高だ』

 店に入ってきた瞬間はいつも険しい表情をして近寄りがたい雰囲気が出ているのだが、席に座り料理を食べていくうちにするりと緩んでいく。
 そんな姿を見ていると、千恵もホッとするのだった。

(今日は緑川さん来るかしら?)

 料理を食べてくれた客は何人もいたけれど、初めて料理を食べて「美味い」と言ってくれた篤史のことは、何となく気になる存在になっていった。


 何度も顔を合わせている内に、彼のことを少しずつ知っていった。

「緑川さんはね、ミドリカワ自動車の御曹司で副社長なのよ。だからまだ若いのに、こーんなに眉間に皺が寄っちゃってるのよ」
「この顔つきは生まれつきだ」

 明美に指摘され、篤史の眉間の皺が深まる。

(上品だし仕事の出来そうな方だと思っていたけれど、雲の上の人だったんだ……)

 ミドリカワ自動車といえば、知らぬ人がいないほどの大企業だ。日本では珍しい高級車がメインのメーカーで、千恵には縁のない会社といえる。
 ここに来る客は皆、余裕のある人が多いが、篤史は桁違いだったのだ。

(もっとかしこまった接客をすべきだったのでは!?)

 そんな考えが頭を過ぎる。
 しかし当の篤史は眉を下げ「俺の顔、険しいだろうか?」と千恵に真剣に尋ねている。
 それを見ていたら、今のままで良いのだと言われているようだった。

「お料理を食べてる時の表情は柔らかいですよ」

 千恵は微笑みながら篤史の前に皿を差し出した。

「いつもお疲れなんでしょう? はい、カツオのガーリックステーキです。疲労回復にピッタリですよ。私からのサービスということで」
「いいのか?」
「はい。いつも私の料理を嫌がらず食べてくれるお礼です」

 常連客の中には明美の料理しか食べないという人もいる。だからこそ何でも美味しく食べてくれる篤史は貴重な存在だった。

「まぁ、千恵ちゃんからのサービスなんて、緑川さんが初めてじゃない? 妬けちゃうわ」
「明美さんの分もありますから! 後で一緒に食べましょう」
「あー千恵ちゃん、最高……!」

 明美とのやり取りを面白そうに眺めていた篤史がカツオを口に運ぶ。
 自然と口角が上がっていくのが見え、千恵は心の中でガッツポーズをした。


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