冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
***


 運命なんてクソ喰らえ。
 篤史にとって自分の力ではどうにもならない事象というのは、不快でしかなかった。

(それなのに、運命に感謝する日が来るなんてな)

 篤史は眠りについた千恵の髪をそっと梳く。さっきまで泣いていた彼女の頬には涙の跡が残っていた。


 千恵が姿を消してからの篤史は、それまで以上に仕事にのめり込むようになっていた。
 電気自動車関連部署の計画見直しや人員整理、部門編成……やれることは全てやってきた。
 しかし何とか黒字に持ち込んだがどう試算しても、将来的な収益は見込めない。

(方向性を変えるしかない)

 篤史は世界各国の様々な企業を視察し、専門家の意見を取り入れつつ、部下からも意見を聴取した結果、『電気自動車ではなくハイブリッドに注力すべきだ』という結論に至った。

 父である壮一郎が始めた事業であり、誰もメスを入れたがらなかったが、もうこれ以上はカバー出来ない。
 篤史は部下とともに資料を作成し、社長の側近たちに根回しを徹底し、ようやく社長の承諾を得ることが出来たのだ。

『好きにしろ……俺はもう老いた。お前の言う通り、退こう』

 そう呟いた父の表情には諦めの他にほんの少しの悔しさが滲んでいた。それでも篤史の提案を受け入れたのは、やはりミドリカワ自動車社長としての最後の矜持だろう、
 方向性が決まってから、ミドリカワ自動車はどんどんと好転していった。高級志向だけでなく、エントリーモデルとして少しグレードを下げた大衆車にも力を入れるようになった。『頑張れば手に入る憧れの車』という地位が新たに確立し始めていた。

「今期は歴代最高益ですよ!」

 秘書の八乙女が興奮気味に伝えてきたのも、記憶に新しい。
 仕事は申し分ない。けれど、篤史の胸の奥には常に虚しさが佇んでいた。

(俺がもっと早く会社を建て直していれば千恵は……)

 そんな思いがいつも付き纏う。
 彼女とお揃いの指輪を握りしめた。

『篤史さん達が未来を支えてくれているんですね』

 千恵の言葉や笑顔、頑張りを思いだし、自分に喝を入れることが出来た。
 ただ毎回気持ちを切り替えられる訳でもない。

(足りない……会ってあの笑顔がもう一度見たい)

 彼女との思い出が頭を支配し、苦しくなる夜もある。そんな時には彼女を探し出したい衝動に駆られる。しかしその気持ちをなんとか押し込めていた。

『そっとしておいてあげて』

 かつて明美に諭された言葉がよみがえるからだ。

(千恵にとって俺は、直接会いもせず一方的に別れを告げた男。傷つけておいて、今さら会ってもまた彼女を傷つけるだけだ)

 自分は邪魔物で、彼女に会うべきではないと言い聞かせていた。

(確かめようもないが、どうか幸せでいてくれ)

 そう願うだけの日々が過ぎていたある日――。
 自動車メーカー合同のエグゼクティブミーティングに参加することになった篤史は、軽井沢にやって来ていた。
 三日間開催されるイベントには世界各国の自動車メーカー関係者が訪れていた。

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