冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
「アツシじゃないか! 久しぶりだね」

 フリータイムの時に声をかけてきたのはハイルマンの社長だった。篤史が頭を下げると、楽しげに近寄ってくる。

「聞いたよ、CEOになったんだって? おめでとう! ようこそ地獄へ」

 ジョークを飛ばしているが、彼なりの激励であることは伝わってくる。

「ありがとうございます。インバーター開発への投資協力、本当に感謝しています。今後ともミドリカワをよろしくお願いします」
「もちろんだよ。君の父よりはやり易いだろうからね。ははは、うちの娘を所望された時は笑ってしまったが、君ならあんな強引な取引はしないだろう?」

 社長は笑っていたが、目が鋭く光っている。
 当時、彼が婚約の解消を快く受け入れてくれたのは、娘を経営の道具にしたくない気持ちが強かったからだろう。

『娘だけでなく君も不満なのか? 二人の気持ちが向き合っていないなら、どんなに良い条件でも受け入る意味がない』

 その言葉があったから、篤史は父の意向をはね除けられたのだ。

(この人には感謝しかないな)

 篤史は口角を上げて、彼にミドリカワのパンフレットを手渡した。

「もちろんです。そうだ、わが社の新しいテーマを見ましたか? ハイブリッドを推進するつもりですので、また良いご縁があることを望んでいますよ」
「いいね。ミドリカワのハイブリッドか。ワクワクするじゃないか! アツシとの仕事はいつも最高だから、今度しっかり話を聞かせてくれ」

 彼は篤史の肩をポンと叩くと上機嫌に去っていく。
 篤史は早速ハイルマンへの企画案を手帳に書き留めた。

(これで全員と挨拶したか……)

 ひと息つこうとすると、スマホが震えた。八乙女からの電話だった。

「台風の進路が大きく変わりそうなんです。なるべく早めに解散した方がよろしいかと」
「分かった」

 海外から来た客人達に何かあってはいけない。篤史は主催に掛け合って、スケジュールの変更を促した。
 その結果、午後のミーティングは中止となったが、全員が帰路に着く事が出来た。

 しかし当の篤史は開催国の代表として、会場の撤収まで残っていたのだ。その数時間の間にどんどんと公共交通機関がストップしていった。何とかスタッフ達をタクシーに押し込むと、篤史はあてどなく歩くことにした。

(どこか一件くらい宿が空いているだろう)

 しかし、この考えが安易であったことに篤史はすぐ気がついた。
 空がどんどん暗くなり、雨足が強くなる。宿を探しながら歩くのはほぼ不可能だった。

(まいったな……どこかで雨宿りして探すしかないか)

 とにかく屋根のある場所を探そうとぬかるんだ道を進んでいくと、とある一軒の家が目にとまった。
 比較的新しい木造のその家には明かりが灯っている。それが不思議と温かそうで、篤史は引き寄せられるように近づいた。家の側まで来ると、ポストの上に小さく『ゲストハウス ひだまり』と表札が掲げられていた。

(泊まれるかもしれないな)

 悩んでいる暇はない。もう雨で全身が冷え、重たくなっている。
 篤史は祈るように呼び鈴を鳴らしたのだった。愛する人がひっそりと暮らす家とも知らずに――。


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