冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
 その後、宣伝用の映像が流され、質疑応答の時間となった。

「それでは質疑応答の時間を設けます。なにかご質問のある方はいらっしゃいますか?」

 司会の言葉に何名かが手を挙げる。指名された記者が立ち上がった。

「ミドリカワのイメージを大幅に変更したように思いますが……今後はこの路線を押していくのですか?」

 篤史は笑みを浮かべてマイクを取った。

「ありがとうございます。伝統ある最高級路線をやめるつもりはありません。むしろ強化していきます。お手軽価格のエントリーモデルやアミティと両輪で推進することで、家族全員に一生涯愛していただけるメーカーになれる。そう思っております」

 篤史の淀みない答えに、記者は満足げにメモを書き込んだ。

「このルティナですが、昔ミドリカワが出していたワゴン車に似ていますね。ほら、カレンシアとか。あの頃のデザインを参考にされたのですか?」

 次の記者が懐かしそうに質問をした。篤史は思わず口角があがる。

「よくお気づきですね。その通りです。弊社のデザインは当初から洗練されていましたから。最近、ちょうど幼い子供とともにカレンシアに乗る機会があったのですが、あの時代の機能美は参考になりますね」

 遊園地に行ったときのことを思い出す。子供を乗せた状態で安定した走りが出来ていた。
 質問した記者も「やっぱりそうですか。僕も昔乗っていたんですよ。良いファミリーカーだったな」と上機嫌だ。
 その後の質疑応答も穏やかに過ぎていく。

「あの、先ほど子供とカレンシアに乗ったとおっしゃいましたが、緑川社長は結婚なさっている、ということですか?」
「はい。子供もおります。子供と出掛ける経験があるからこそ、今回のルティナ開発に寄り添えたかと思います」

 篤史がはっきりと肯定すると、ざわめきとともにシャッタ音が鳴り響く。その中から「あの!」と別の記者が割り込んできた。

「数年前、ハイルマンのご令嬢とご結婚されるという話がありましたが、お相手はその方でしょうか?」
「いいえ。今日ご来場の皆様はご存じかと思いますが、そもそもあの話は噂に過ぎません。ハイルマンとは業務提携などを通じて良好な関係を築いておりますが、私自身は噂のご令嬢と会ったこともありません。ただ、結婚相手については公表するつもりもありませんので、そっと見守っていただければと思います」

 しっかりと釘を刺すと、割り込んだ記者は気まずそうに口を閉ざした。
 すると先程質問した記者が再び手を挙げた。

「社長でありながらイクメン、ということですね?」
「ははは。イクメンとは言わないかもしれないですね。妻の頑張りには頭が上がりません。二人で育てたいですが、限界はある。だからこそ、子育てをサポートする車にしようと思っていました。子育て中の社員からの意見もたくさん集まり、本当に必要な機能を装備できたと自負しております」

 篤史は会場中に目を走らせる。記者たちの表情や反応を見るに、おおむね想定内だ。

(この雰囲気なら好意的に書いてくれるだろうな)

 一時は政略結婚の話まで出たのだ。それをせずに会社を立て直し、母親向け新ブランド発表で「母親」に対して無知ではないことを示せたのは大きい。
 家族を利用しているようで心苦しいが、千恵の頑張りを誇らしく思っているのは事実だ。隠すことではないはずだ。
 その後も穏やかな質疑応答が続き、無事記者会見は終了した。

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