冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
 部下への指示を終えて帰宅の支度をしていると、八乙女が近づいてきた。

「社長、お話があります。少しでいいのでお時間いただけませんか?」
「……俺も話があるからちょうどいい」

 切羽詰まったような真剣な眼差しで迫られ、篤史は了承した。
 空いている小会議室に入ると、彼女はきつく結ばれていた口を開いた。

「彼女と結婚したんですか?」
「あぁ。何ヶ月も前にな」
「そんなっ……!」

 悲痛な声に篤史はわずかに顔を歪ませた。

「公表すると邪魔が入るからな。さっさと籍を入れたんだ」

 篤史が含みを持たせた発言をすると、八乙女は押し黙った。

「どうして……どうして私じゃダメだったんですか?」
「はあ?」

 絞り出された問いに思わず聞き返すと、彼女は目に涙をためて篤史をキッと睨みつけた。

「私っ、ずっと社長のことが好きでした。でも、ハイルマンのご令嬢と結婚なさるっていうから身を引いたのに……あんな、どこの骨とも分からないような女なんかとお付き合いしていたなんて……。だから先代の手伝いをしたのに。あの女が諦めるように社長のスマホから電話までしたのにっ! どうして、こんなにしぶといのよ!」

 八乙女が大声でわめき散らす。いつも冷静だった彼女の面影はどこにもない。

(父だけではなく、やはり八乙女が千恵に念押しをしていたんだな)

 もっと早くに知っていたら篤史は烈火の如く怒っていたかもしれない。
 けれど千恵と再会出来た今の篤史は違う。静かに彼女をじっと見つめた。

「八乙女、君は大きな勘違いをしている。君をそばに置いていたのは、君が仕事面で優秀だったからだ。君と付き合うためではない。ハイルマンの令嬢や千恵がいようがいまいが、それは変わらない。君に対して恋愛感情を持ったことは一度だってないし、今後もない」

 冷静に伝えると、彼女は力が抜けたようにその場に座り込んだ。

「そんなのっ……分かっていました。私だって最初は、そんなつもりじゃなかったのに……。でも、先代の言葉がなくても、いつか、いつか私の気持ちを打ち明けたら私達は上手くいくんじゃないかって……」

 八乙女は涙を流しながらしゃくりを上げる。
 彼女が泣き止むまで篤史はただずっと待っていた。
 ようやく泣き止んだ彼女は、息を整えて立ち上がる。濃いめの化粧は涙で崩れていたが、観念したような表情をしていた。

「手を差しのべてはくれないのですね。……分かっていましたけど」 
「差しのべる手はもうない。君は色々とやり過ぎた」
「そうですよね。そういう愚直で真っ直ぐなところが、経営者として向いていないって思っていました。……だから目が離せなくて、気がついたら好きになっていたみたいです。もう遅いですけどね」

 篤史が黙って小さくうなずくと、八乙女はスッキリとした表情をした。

「私のこと解雇するのでしょう?」
「あぁ。君をそばには置いておけないからな」 
「分かりました。解雇だけで済むなら御の字です」
「もう二度と家族に関わらないと約束してくれ」

 篤史の言葉に、八乙女は悪女のように笑みを浮かべた。

「あら、解雇する相手に口約束させるなんて。私が自暴自棄になって家族に突撃するかもしれませんよ?」
「しない。俺の知る八乙女は無駄なことをしない人だ」

 篤史の答えに八乙女は作り笑顔を崩して力なく微笑んだ。

「……負けました。完敗です」
 そう言ってドアノブに手をかける。そしてふと篤史の方を振り返った。

「本当にごめんなさい」

 頭を下げ、静かに退室していった。
 残された篤史が深いため息をつくと、彼のスマホがブルブルと震えた。

『記者会見、子供達と見ました! とっても素敵な車ですね。それに質疑応答の時の篤史さん、格好良かったです。湊斗と紬もパパの仕事が少し分かったみたいで大興奮でした』

 興奮した千恵の顔が浮かんでくるようだ。湊斗も紬もテレビの前で跳ね回っていたのだろう。
 篤史は笑みを浮かべてスマホをしまう。

「帰るか」

 今から帰れば子供達の寝る前に一目会えるだろう。そう思えば力が湧いてくるのだった。


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