冷徹御曹司との運命の再会 〜隠していた双子ごと愛されました〜
 どうやら篤史は本当に明美に許可を取っていたらしく、『今時、あんな真面目な青年いないわよ』と評していた。

「緑川さんはお忙しい方なんだけど、最近は千恵ちゃんに会うためにうちに通ってたみたいよ」
「まさか……」
「本当よ? とにかく悪い人ではないから嫌じゃなかったら会ってあげて」

 千恵に微笑みかける明美の表情はいつも以上に柔らかい。

「嫌だなんて……むしろ光栄すぎます」
「あら、うふふ。青春ね」

 明美はスパークリングの日本酒を持ってくると、細身のグラスに注いで千恵に手渡した。

「千恵ちゃんのこれからに乾杯!」
「へ? か、乾杯」

 その日、店を閉めるまでずっと明美は上機嫌だった。
 その姿を見ていると、千恵にも幸せな気分が伝播してくるのだった。


 土曜日、千恵はそわそわと部屋の中を無意味に歩き回っていた。

『十時に迎えに行く』

 受け取ったメッセージを見たり、鞄の中身の出し入れをしたり。
 遊びに行くような服を持っていない千恵は、会社に行く時と同じオフィスカジュアルを身に纏い、薄く化粧をした状態で窓ガラスに映る自分を見た。
 不安そうな顔の自分がこちらを見つめている。

「ドライブだし、なんの支度もいらないって言っていたけれど……」

 小さく呟くと同時に握りしめていたスマホが震えた。

『着いた。出てこられる?』

 慌ててアパートの外に出ると、ダークブルーのSUVが停まっていた。
 篤史の会社のロゴマークがキラリと輝いている。
 千恵が駆け寄ると、窓越しに篤史の姿が見えた。

「お待たせしました」
「いや、こっちが早く着きすぎた。待ちきれなくて。乗って」
「お、お邪魔します……!」

 助手席を開けると座席には新し目なクッションが置かれている。
 その上にそっと座ると、ゆったりとしたシートが千恵を迎えてくれた。

「ドライブの後はランチでいいか?」
「は、はい!」
「じゃあ行こうか」

 スムーズに発車した車とは反対に千恵はぎこちなくうつむいた。

(なんでこんなに心臓がうるさいの? いつもみたいにお話したいのにっ!)

 ちらりと横を見るとチャコールのカットソーとライトグレーのテーパードスラックスをラフに着こなしている姿が目新しい。

(スーツ姿じゃない緑川さんが眩しい)

 気がつけば緊張で喉がカラカラになり、こみ上げるようにコホッと小さな咳が出た。
 すると横から小さなペットボトルの水がひょいと差し出される。

「大丈夫か? これ未開封だから飲んで」
「ありがとう、ございます……」

 緊張で冷たくなった手でなんとか蓋を開けて飲もうとした時、車がガタリと揺れた。

「わっ……!」

 開けたばかりのペットボトルから水がボタボタと千恵のスカートに落ちる。
 慌てて蓋を閉めたけれど、後の祭りだ。千恵のスカートはじわりと色を変えていた。

「すまない。大丈夫か?」
「私こそごめんなさい! でも、車のシートには零れていませんから!」
「そんな事はいいんだ。千恵が大丈夫じゃないだろう?」
「すぐ乾きますから」

 千恵が「心配しないでください」と言っても、篤史の耳には入っていないようだ。
 彼は申し訳なさそうな表情でアクセルを踏み込んだ。

「ちょっと寄り道をしよう」
「え?」


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