一夜のあと、君に溺れる
「なーんか、桜子さん、不満そうですねぇ」

「不満だもの。私もお見合いじゃなくて、普通の恋愛がしたい」

「もう、そんなこと言っちゃうから、お嬢様って思われるんですよ」

千里ちゃんがもっともなことを、ビシッと指摘してくる。不満げにぷくっと膨れていると、大ちゃんがくすくすと笑っていた。別に何も面白い事なんてないのに。

「あ、じゃあ私ここなので。お先でーす」

「またね、千里ちゃん」

「今日はありがとうございました。さようなら」

千里ちゃんはヒラヒラと手を振って電車を降りて行き、大ちゃんは丁寧にご挨拶をした。大ちゃんって、本当に真面目で優等生みたい。スーツもよく似合っているし、ヒールを履いた私よりも断然背が高い。顔は杏子さんみたいに優し気で、こうして見ると実はイケメンなのかも。

「どうかしました?」

「ねえ大ちゃん、今日だけでいいから、恋人になってくれない?」

「は???」

私の突拍子もない提案に、大ちゃんはこれでもかと目を丸くする。自分でも、何でこんなこと言っちゃったのか、よくわからない。結婚式でシャンパンをいただいたから、酔っているのかしら。

「違うの、聞いて。私、大人の恋に憧れてるの」

「……ええっと、俺って桜子さんの1こ下でしたよね?」

「年齢の話じゃなくて、ほら、私たちってもう大人でしょ。最近ドラマとか小説でワンナイトとか流行ってて、憧れてるの」

「う、ううん……?」

大ちゃんは眉間にしわを寄せながら、頭を抱える。

「えーっと、えーっと、ワンナイトって意味、知ってます?」

「もちろん。一晩だけの関係ってことよね。なんかかっこいいじゃない」

「うーん、うーん……」

さらに頭を悩ます大ちゃん。

「ワンナイトって、そんな軽い気持ちでするもんじゃなく……いや、軽い気持ちでするからワンナイトなのか……」

ブツブツと、何か呟いている。

「そ、そもそもですね、相手が俺でいいんですか?」

「だって大ちゃんだし。問題ないよ?」

「いや、ちょっと意味不明なんですけど」

私、とんでもなく非常識なことを言っているのかしら? でもワンナイトって憧れるし、大ちゃんは素敵な男性だと思っているし。ううん、何だかよくわからなくなってきた。
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