一夜のあと、君に溺れる
今まで仕事の時間も合わず家でもさほど接点のなかった父をストーカーのように待ち伏せし、毎日呪文のように「彼氏に会ってほしい」と訴え続けた結果、どうにか会ってもらえることになった。

もういい大人だし、親なんて無視したって構わないとも思ったけれど、簡単には切れない見えない親子の縁を感じる。それに、やっぱり誠実でいてくれる大ちゃんには私も誠実でいたいと思うのだ。

そんな煮え切らない思いを抱えている私とは対照的に、大ちゃんは「手土産に大福って、主張しすぎかな?」と笑っている。

「大福くんが大福持ってくるって、確かに主張してるかも」

花影堂(かえいどう)の大福は絶品だから、ぜひ食べてもらいたいと思ってね」

「父は甘い物好きだから、喜ぶと思う」

ふふっと笑うと、大ちゃんもにっこり微笑んでくれた。きっと大ちゃんは緊張していると思うのに、なぜだか私の方が緊張を解されている感じ。大ちゃんにはほんと敵わないな。

住宅街の一角にある、グレーの石材とガラスを組み合わせた外壁が目印の我が家。大ちゃんと出かけるときよく家の前まで車で来てくれるけど、上がってもらうのは初めてだ。

リビングには両親が座っていて、対面に私たちが座る。まるで面接みたいで背筋が伸びた。

「本日はお忙しいなかお時間をいただき、ありがとうございます。桜子さんとお付き合いをさせていただいております、宮越大福と申します」

はきはきと挨拶をした大ちゃんが頭を下げる。父は腕組みをしながら、偉そうに大きく頷いた。

「ああ、桜子から聞いているよ。料亭宮こしの息子さんだって? 宮こしはよく利用させてもらっている」

「はい、いつもご贔屓にしてくださってありがとうございます。こちらは私の地元でよくいただく大福で、個人的にもとても気に入っているものです。ぜひ皆様で召し上がってください」

「まあ、ご丁寧にありがとうございます。大福くんが大福を食べたら共食いね。うふふ」

母が手土産を受け取り、朗らかに笑う。大ちゃんの大福(主張)は、見事母に刺さったらしい。美味しそうねぇ等と言いながら、ご機嫌にお茶の準備を始めている。
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