一夜のあと、君に溺れる
思ったより穏やかな雰囲気に、ほっと息をつく。母が淹れてくれた緑茶の香りが、ふわっと辺りに広がった。ほどよい渋みがカラカラの喉を潤わせる。

不安な私とは対照的に、大ちゃんは一度私と目を合わせると優しく目元を緩ませた。まるで任せてと言わんばかりの姿に、胸がキュンと震える。間違いなく大ちゃんについていっていいんだと思わせてくれるくらい、頼もしく感じる。

「桜子さんとは真剣にお付き合いさせていただいています。結婚を前提に、お互いのことをより深く知るために、まずは一緒に暮らしたいと考えています。ご心配もあるかと思いますが、どうかご理解いただけますと幸いです」

「よろしくお願いします」

大ちゃんに倣って私も慌てて頭を下げた。
しん、と沈黙が訪れる。チラリと父を見ると眉間にしわを寄せながら渋い顔をしている。母は穏やかな表情をしているので、反対ではなさそうだけれど……。

「なるほど、君たちの考えはわかった。だが、はいそうですかと頷くわけにもいかないんだよ」

「お父さん……!」

思わず声を荒げそうになってしまう。前のめりになった私の手に、大ちゃんの温かい手が重ねられる。「さーちゃん、大丈夫だから」と穏やかに諭されて、すごすごと引き下がった。

そんな私たちを見て、父は咳払いをひとつ。

「大福くん、老舗を継ぐというのは大変だろう?」

「そうですね、私で7代目になります」

「なるほど、やはり世襲というのは大事だと思わんかね?」

「はい、世襲は確かに意味があると思います。長く続いてきたものにはそれだけの理由と重みがありますし、受け継ぐことで守れるものも多いです」

「そうだろう。だから私も世襲を大事にしたいんだよ。まあ正直に言えば、私は娘には医師と結婚して、家を継いでほしいと思っている」

父の気持ちは嫌と言うほどわかる。ずっとその想いがあったから、毎回私に医師との見合い話を持ってきていたのだ。でも私は、医師ではない大ちゃんを好きになってしまった。

父の想いに反することにほんの少し胸が痛むけれど、だからといってもう父の言いなりになるほど私は弱くない。だって私は「好き」という気持ちを知ってしまったから。
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