一夜のあと、君に溺れる
12.心苦しさと罪悪感
あれから何度か高崎先生に食事に誘われたけれど、もちろんすべて断っている。高崎先生はすぐに引き下がるから、よかったと思う反面少し申し訳ない気もしていて……。

仕事中は完全に仕事の話以外関わらないし、患者さんとの信頼関係もできているとても良い先生に見えるけれど。それでもやはり、私が高崎先生に靡くことは1ミリたりともないのだ。思うところはあれど、波風ひとつ立たない日々が静かに流れていく。

そんなある日の午後、処置カートを押しながら廊下を歩いていると、珍しく高崎先生が私を呼び止めた。

「ああ、桜子さん。僕たちのお見合いについて、理事長からお話があるみたいで、仕事終わりに店に来るよう言付かっています」

その言葉に、ピタリと足が止まる。

「え、父がですか?」

「ええ。理事長のことだから、きちんとした場を設けたいのでしょう。わかっていますよ、お見合いを断られることくらい」

「あ……そうですか」

「すみませんが、最後にお付き合いいただけますか?」

「はい、そういうことなら……」

心の中で小さくため息を吐く。

お父さんったら、高崎先生が諦めてくれないから、ちゃんとお断りしますって言ってくれるのかしら。だとしたら、大ちゃんとの仲を認めてくれたってことよね。これが最後っていうなら、ちゃんとしておかないと高崎先生にも悪いし。

よろしくお願いしますと頷いた私を、高崎先生はいつも通り目元を柔らかく下げて、「こちらこそ」と微笑んだ。

あまり乗り気ではないけれど、仕事が終わってから指定された店に向かった。大ちゃんにはメッセージを入れておいたけれど、いくらお見合いのお断りのためとはいえ高崎先生と食事をすることは、きっといい気持ちにはならないと思う。だけどこれが最後だからと思えば、大ちゃんにもしっかり向き合える気がした。

夕方の空は茜色から暗闇へ変化しているところ。
街灯がぽつぽつと足元を照らしてくれる。
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