一夜のあと、君に溺れる
「いや、それにしても。僕の負けですね。どんなにお誘いしても少しも僕のことを見てくれないですからね」

「えっと、すみません」

「いえいえ、それだけ桜子さんが恋人に対して愛が深いんでしょう」

あはは、と高崎先生は軽く笑う。愛が深いと言われて、少しばかり優越感に浸る。そんな私を見ていた高崎先生の表情が、ふと真剣なものに変わった。

「それでも、僕は桜子さんが好きですよ」

その声は、先ほどまでの軽やかな調子とは違って重みを増している。あまりにも真剣な表情をするものだから、ドキリと心臓が揺れた。

「最初に会った時から、ずっと。一緒に仕事をして、あなたの真っ直ぐなところや患者さんへの向き合い方に、何度も心を動かされました」

言葉がゆっくりと、耳に響いてくる。まるで幼い子をあやしているような、そんな優しさに、胸が潰れそうになった。

高崎先生のことは嫌いじゃない。むしろ良い人だと思っている。だけど、それでもやっぱり、私の好きな人は大ちゃんだと思うのだ。

何がそんなにも違うのかと、そう問いかけても答えはうまく言葉にならない。ただ、大ちゃんの名前、大ちゃんの顔を思い浮かべただけで、胸の奥がぽっと温かくなる、そんな感じ。私の中で、大ちゃんはとんでもなく偉大な存在。

「せっかくお声がけいただいたのに、本当に申し訳ありません」

「いえ、謝らないでください。ただ僕は桜子さんが好きだということを伝えたかっただけですから。さあ、今日は飲みませんか。他にもおすすめの日本酒があるんですよ」

「ありがとうございます。いただきます」

高崎先生の優しさには、素直に感謝している。こんなにも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる人に、冷たくすることなんてできない。

だけど――
やっぱり私はその気持ちに応えられない。
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