一夜のあと、君に溺れる
「今日だけ恋人がいいんですよね?」

「うん、付き合ってくれるの?」

「……はい」

大ちゃんは困ったように眉を下げながらも、ニコッと了承してくれた。

「でも、誤解しないでほしいんですけど、ワンナイトなんて初めてですからね。いつも遊んでるなんて思わないでくださいね。相手が桜子さんだから、するんですよ」

「それだけ大ちゃんは誠実なのね」

「誠実かと言われると、ワンナイトを承諾した時点で崩れてる気がしますけど……まあ、とりあえず今日は恋人なんですし、楽しみましょう」

「ふふっ、嬉しい」

「あー、俺も酔ってるのかなぁ」

大ちゃんはガシガシと頭を掻きながらも、もう片方の手は私の手を握り直した。あったかい大ちゃんの手。

「どうします? 少し飲んでいきます?」

「あっ! 酔った勢いってやつね!」

「そういう意味で言ったわけじゃないけど……。まあ、いいか、それで」

駅の近くにおしゃれなバーがある。行きつけというほどでもないけれど、時々利用させてもらっているとても感じの良いお店。

カラランと耳に優しい音と共に、マスターが「いらっしゃい」と柔らかな笑みをくれる。ちなみにイケボ。

「珍しいですね、桜子さんが男性を連れてくるなんて」

「はい。彼氏なんです」

「こんばんは。とても雰囲気の良いお店ですね」

「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」

カウンター席に座って、カクテルと鴨のパストラミを注文した。いつもは一人か、お友達としか来ないから、今日は大ちゃんが隣にいてくれて嬉しい。

「ふふっ、彼氏って言っちゃった」

「嬉しそう」

「言ってみたかったの、彼氏ですって」

「あはは、桜子さんって可愛すぎません?」

ドキッと心臓が揺れる。やっぱり「可愛い」は言われ慣れてなくて、どんな表情をしていいかわからない。

「ねえ、大ちゃんってモテるでしょ?」

「桜子さんほどではないですよ」

ニコッと爽やかな笑顔。何これ、超イケメン。本当に彼氏だって勘違いしちゃいそう。
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