一夜のあと、君に溺れる
二人で小さく乾杯をして、カクテルに口をつける。いつもと同じカクテルのはずなのに、今日はとても美味しく感じられる。

「美味しいですね、この店」

「でしょう。疲れたときとか、たまに来るの。ほら、カクテルもお料理も美味しいけど、マスターがイケオジでイケボでしょ。癒されるのよね」

「なるほどね。わからなくもないけど、彼氏の前で他の男を褒めるのはどうかと」

「あ……大ちゃんもイケメンだよ?」

「ふっ、取ってつけたかのよう」

「ほ、本当だってば。そうじゃなきゃ、こんなこと頼まな――」

ふっと大ちゃんに顔を覗き込まれ、瞬間、かすかに触れる唇。
え、キス――?!

「それは、俺と桜子さんの秘密だから」

聞こえるか聞こえないかの声が、耳元をくすぐるように響いてくる。

「ご、ごめん……」

ドッドッドッと心臓が激しく音を立てている。バーの照明が少し暗めで良かった。そうじゃなきゃ、他のお客さんに見られているし、なにより私の顔が真っ赤になっている気がする。アルコールのせいってことにしてもいいかしら?

「照れてる」

「だって急にそんなことするから」

「彼氏だから、いいよね?」

「……うん、いいよ」

だってこれは私が望んでいるんだもの。大ちゃんは今日は私の彼氏なの。嘘の恋人だけど、大ちゃんはちゃんと彼氏になってくれているんだ。嬉しい。

お見合いしかしてこなかったから、何が正解なのか分からないけれど、彼氏ができるってこういうことなのね。胸がドキドキして、収まりそうにない。どうしたらいいんだろう。

「大ちゃん、どうしよう。ドキドキ止まらない」

「そんなんで、この後大丈夫なんです?」

「大丈夫。憧れはやり遂げるわ」

「ふっ、どんなやる気なの、それ」

クスクスと大ちゃんは楽しそうに笑った。

大ちゃんはひとつ年下だけど、全然そんな感じがしなくて、今日なんてスーツを着ているからかとても大人っぽく見える。淡い間接照明が大ちゃんを色っぽく照らし、見惚れてしまいそう。

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