一夜のあと、君に溺れる
『心配だから、すぐに店を出て』

「うん、わかったわ」

頷きつつ、心の奥に湧き上がる小さな不安。小さな疑念。だけど、それを確信に変えるほどの何かがあるわけではない。だって、高崎先生はいつもと変わらず優しい笑みをくれるのだから。

思い過ごしならそれでいい。
大ちゃんが心配症だってだけかもしれないし。
それに、騙されるにしたって何を?とも思うわけで……。

席に戻ると、高崎先生は一人しっぽりと日本酒をたしなんでいた。その穏やかな表情に、ほっと安堵する。

「高崎先生、申し訳ないんですけど、父も来ないので今日のところはお暇してもよろしいでしょうか」

「そうですね、そうしましょうか。でも僕は、桜子さんと同じ時間を過ごせてとても楽しかったです」

「私も、ご一緒できて楽しかったです。お酒も美味しかったですし」

「いろいろ飲みましたね。ああ、お水頼んでおきました。口直しも必要かと思いまして」

「ありがとうございます。いただきます」

アルコールで火照った体を、お水で落ち着かせる。高崎先生に申し訳ない気持ちと、大ちゃんへの罪悪感で、澄んだ水がなぜかほんのり苦く感じられた。

席を立つとふわっと頭が揺れる。アルコールのせいで体がふわふわしているみたいだ。少し飲みすぎてしまっただろうか。それとも普段飲まない日本酒だったから、体がびっくりしているのかもしれない。粗相しないよう早急に帰るに限る。

「ここは僕が払います」

「いえ、とんでもない。私もお支払いします」

カバンから財布を出そうとすると、いいからと手で制される。どこまでも優しくスマートな高崎先生。お言葉に甘えて、高崎先生が支払いをするのをぼんやりと眺めた。

ふいに視界の端が揺れる。なんだろう、まぶたが重い気がする。店の外に出るとふわっと足元がふらつき、その異常な感覚に何かおかしいと体が感じ始めた。
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