一夜のあと、君に溺れる
「大丈夫ですか? 家まで送りますよ」

「いえ、そういうわけには……」

お断りしたいのに力が入らない。ふいに高崎先生は私の肩を引き寄せた。密着することに抵抗を覚えるというのに、頭がぼーっとして何も考えられなくなった。そのまま引きずられるようにして、高崎先生の車に辿り着く。

どうしよう、この状態は絶対によくない。でも気を抜くと意識が飛びそうになる。どういうことなの。

逃げる?
連絡する?
どうする?

カバンからスマホを取り出したいのに、上手く指が動かない。カシャンと大きな音を立てて、スマホが滑り落ちていった。それを、高崎先生は拾い上げる。

「誰に連絡しようとしているんですか?」

「あの……」

「無駄ですよ。あなたは今から僕と特別な時間を過ごすんですから」

高崎先生の優しげな微笑みが、ねっとりとした笑みに変わる。ぞくりと背筋が冷えた。

「桜子さん、僕はあなたを手に入れたい。あなたと、あなたの後ろにある大きな権力をね」

「……何を……言っているんですか……?」

「どうしても手に入れたいものがあるとき、どうするか知っていますか?」

「……私を……利用するんですね……」

「さすが桜子さんは賢い。そう、既成事実を作るんですよ。そうしたら、あなたはもう僕から逃げられませんからね」

朦朧とした頭で、逃げなくちゃと感じているのに、体がまったくいうことを聞かない。そればかりか、意識がどんどん薄れてくる。このまま意識をなくしたら高崎先生の思う壺だ。

どうしたらいい?
どうしたら――

思考がどこか闇の中に沈んでいく。視界が暗くなり、音が遠くなる。高崎先生の声がまるで水の中から聞こえるように、くぐもって響いた。

体が重い。
瞼も鉛のように落ちてくる。

大ちゃん、助けて――

途切れる意識の中で、私は必死に大ちゃんの名前を呼んでいた。
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