一夜のあと、君に溺れる
13.急いては事を仕損じる side大福
夜からの仕事に備えて、夕方に早飯を食べる。スマホでポチポチニュースを読みながら食を進めていると、さーちゃんからメッセージが入った。

内容は、先日のお見合い相手に正式に断りを入れるべく、お父さんと共に食事に行くということだった。実に誠実な対応ではあるが、少しばかり複雑ではある。

行ってほしくないけれど、行くなとは言えないのが正直なところだ。それに、さーちゃんはこのことを隠さず伝えてきた。誠実でいてくれるさーちゃんには、俺も誠実でいたいと思う。

了解した旨をメッセージで伝えると、愛らしい猫にいってきますと言葉が添えられているスタンプが送られてきた。それだけで、ふっと頬が緩む。

そうこうしているうちにまたメッセージが届き、その内容に俺は顔を顰めた。

「……なんだよ」

思わず悪態をつく。送り主は元彼女の実花だ。ずっと無視をしているけれど、やり直したいだの、話を聞いてほしいなどと、今さら何をという意味不明なメッセージだ。

食事を終えた俺は食器を下げ、スマホをポケットにしまう。もう休憩時間は終わりだ。一度事務所に寄って、制服のジャケットを羽織った。スマホはデスクの引き出しへ保管する。そうして実花からのメッセージのことは忘れて、いつも通り仕事に没頭した。

仕事が一息付く頃、「大ちゃん、ちょっと」と母に呼ばれて事務所に戻った。

「何かあった?」

「大ちゃんのスマホがずっと鳴ってるのよ。何か緊急の用事でもあるんじゃないの?」

「え、スマホ?」

保管している引き出しからスマホを取り出す。画面には、着信とメッセージがずらりと表示された。そのどれもが、実花からだった。

「ねえ、大丈夫なの?」

「着信拒否すべきだったかも」

「やだ、変な事件に巻き込まれてないわよね?」

「そういうのじゃないよ」

と、またメッセージが立て続けに入ってくる。憂鬱になりながら念の為確認すると、やはり実花からで――

【最後に一度だけ会ってほしい。今、料亭の前にいるから】

あー、頭が痛い。料亭の前にいるとか、本当だろうか。一応確認しておくべきなのかもしれない。仮に料亭の前に居座られたら、店に迷惑がかかるし、最悪騒ぎになりかねない。

「はぁー」

重苦しい息が漏れた。こっちは仕事中だというのに、おかまいなしかよ。さっと表に出て実花の存在を確認して、店の前から追いやろう。うん、そうしよう。

いろいろと頭の中でシミュレーションしながら、ひっきりなしにメッセージを告げるスマホをポケットに忍ばせる。彼女がいないことを願いつつ外に出ると、俺の気持ちと比例するかのように空気がじっとり重く感じられた。
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