一夜のあと、君に溺れる
外はすっかり暗く、料亭宮こしの入口には淡い橙色の灯りが柔らかく照らす。風が通り抜けるたびに、暖簾がふわっと揺れた。ほのかに鼻を掠める出汁の香りは、たくさんの客をもてなしていることを教えてくれているようだ。
「大ちゃん」
「……実花」
「やっぱり来てくれた」
その声は以前と変わらない。嬉しそうに笑い、何のためらいもなく俺の腕に絡みついてくる。まるで別れたことが嘘かのように、自然なスキンシップの取り方。俺は反対の手で実花を引き剥がした。
「大ちゃん!」
非難される覚えはない。だって俺は実花ときちんと別れているし、今はさーちゃんという大事な彼女もいるのだから。
「何しに来た?」
「もう一度、大ちゃんと話がしたかったの」
「俺は話すことなんてないよ」
「私は大ちゃんとやり直したいの」
「俺はやり直すつもりはない」
はっきりきっぱりと、実花の目を見て言った。冷たい声色に、完全なる拒絶を忍ばせて。
ひんやりとした風が、俺たちの間を吹き抜けていく。
実花は拳を握り、キッと俺を睨む。睨まれる覚えはないし、付き合っていた頃の実花はそんな表情しなかった。俺が知らなかっただけか、変わってしまったのか、それはわからないけれど。俺の知っている実花はもうそこにはいない。
「私、知ってるのよ。大ちゃんの彼女のこと」
「ああ、前に会ったって聞いたよ」
「あの人って神木坂総合病院の理事長の娘でしょ。そんな人の結婚相手は医師じゃないとダメなんですって。大ちゃん、今さら医師になんてなれないでしょう?」
「そんな話、どこで……」
「その人にはその人にあった家柄があるのよ。その点、私は家柄にはこだわらないから安心して」
まるで自分の寛容さを誇示するかのように胸を張る実花に、心底嫌気が差した。俺を見下しているのだろうか、彼女からはそんな雰囲気が伝わってくる。見下すのは構わないけど、そこにさーちゃんを巻き込むことに腹が立つ。
「大ちゃん」
「……実花」
「やっぱり来てくれた」
その声は以前と変わらない。嬉しそうに笑い、何のためらいもなく俺の腕に絡みついてくる。まるで別れたことが嘘かのように、自然なスキンシップの取り方。俺は反対の手で実花を引き剥がした。
「大ちゃん!」
非難される覚えはない。だって俺は実花ときちんと別れているし、今はさーちゃんという大事な彼女もいるのだから。
「何しに来た?」
「もう一度、大ちゃんと話がしたかったの」
「俺は話すことなんてないよ」
「私は大ちゃんとやり直したいの」
「俺はやり直すつもりはない」
はっきりきっぱりと、実花の目を見て言った。冷たい声色に、完全なる拒絶を忍ばせて。
ひんやりとした風が、俺たちの間を吹き抜けていく。
実花は拳を握り、キッと俺を睨む。睨まれる覚えはないし、付き合っていた頃の実花はそんな表情しなかった。俺が知らなかっただけか、変わってしまったのか、それはわからないけれど。俺の知っている実花はもうそこにはいない。
「私、知ってるのよ。大ちゃんの彼女のこと」
「ああ、前に会ったって聞いたよ」
「あの人って神木坂総合病院の理事長の娘でしょ。そんな人の結婚相手は医師じゃないとダメなんですって。大ちゃん、今さら医師になんてなれないでしょう?」
「そんな話、どこで……」
「その人にはその人にあった家柄があるのよ。その点、私は家柄にはこだわらないから安心して」
まるで自分の寛容さを誇示するかのように胸を張る実花に、心底嫌気が差した。俺を見下しているのだろうか、彼女からはそんな雰囲気が伝わってくる。見下すのは構わないけど、そこにさーちゃんを巻き込むことに腹が立つ。