一夜のあと、君に溺れる
「なんだい、こんなとこに突っ立って」

「おばあ様」

「久しぶりねぇ、元気だったかしら?」

「ええ、おばあ様もお変わりなく」

「大ちゃんに会いに来たのかい?」

「はい、大ちゃんにどうしても会いたくて」

「そうかそうか、お茶でも飲んでいきなさい」

「ありがとうございます!」

祖母は実花の背を押し、自宅の方へ誘導する。受け入れられたことに気を大きくしたのか、実花は満面の笑みになった。そして、慣れた足取りで自宅の方へ歩いて行く。

祖母の言葉も、実花の行動も意味が分からない。俺の感情だけがそこに置き去りになった気がして、慌てて祖母の腕を掴んだ。

「ばあちゃん、ちょっと!」

咎めようと思ったのに、逆に祖母に腕を掴まれ前のめりになった。祖母が耳元で、声を落としてボソボソ呟く。

「大ちゃん、ばあちゃん嫌な予感がしてる。ばあちゃんがあげた御守りどうした?」

「え? スマホに着けてるけど……」

見せようと胸ポケットからスマホを出す。瞬間、手からこぼれ落ちるように、ストラップが地面に落ちた。

「え……切れた?!」

ドクンと心臓が嫌な音を立てた。スピリチュアルなことを信じるかと言われれば、信仰心などまったくない。だけどどうにも胸がざわつく。

ストラップを雑に扱ったわけでもないし、引っ張った記憶もない。それなのに、簡単に切れるはずのない紐の部分が、プッツリ切れてしまっている。

「ばあちゃん、これ……」

「今日、桜子ちゃんは?」

言われてハッとなる。さーちゃんはお見合いを断るために食事に行くと言っていた。お父さんも一緒だと聞いてはいるけれど、何か変なことに巻き込まれたりしていないだろうか。話が拗れたりしていないだろうか。

「どうしたの、大ちゃん?」

考え込む俺に、実花がコテッと首を傾げて近寄ってくる。腕に触れられそうになって、反射的にすっと身を引いた。実花はあからさまに不機嫌そうな顔をする。

「桜子さんなら、今ごろ婚約者と仲良くしてるわよ。だから私たちも仲良くしましょう」

「うるさい」

腹の底から冷たい声が出た。まさか自分の口からこんなにも冷酷な言葉が出るとは思わなかった。空気が凍りついたように静まり返り、実花も押し黙るほどだった。
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