一夜のあと、君に溺れる
ぽんっと、背中を擦られる。

「……ばあちゃん」

「大ちゃん、落ち着きなさい。急いては事を仕損じるからね。はい、深呼吸」

祖母に言われるがまま、大きく息を吸う。新鮮な空気が体を巡り、すうっと頭が冷えた。実花なんてどうでもいい。まずはさーちゃんの安否確認だ。

俺は仕事中だということも忘れ、さーちゃんに電話をかけた。何度かのコールのあと、留守電に切り替わる。それもそうか、食事中なら出られないよなと思いつつも、どうすべきか逡巡した。

そういえば――

「……実花、何で彼女の相手が医師じゃないとダメだって知ってる?」

「そ、それは前に桜子さんが教えてくれたのよ」

「じゃあ、どうして今日、彼女が婚約者といることを知ってる?」

「そ、それは――。そんな事言ったかしら?」

急にしどろもどろする実花に違和感を覚える。そうだ、実花は最初から何かおかしかった。こんなにしつこく立て続けにメッセージや電話を送ってきたことも、今までなかった。

何かがおかしい。

俺はまた、さーちゃんへ電話をかけた。とにかくさーちゃんの身の安全を確かめたい。何度目かのコールのあと「もしもし?」と可愛らしい声が耳に届く。思わずふっと安堵の息が出た。

「さーちゃん。今どこ?」

『えっと、まだ高崎先生といて……でももう少ししたら帰るから』

「お父さんは?」

『それが、急患があったみたいでまだ来られないの』

「え、二人っきりなの」

『今のところは』

ふたたび心臓がドクンと嫌な音を立てた。途端に始まる胸騒ぎに、体がブルリと震える。

「ねえ、それ騙されてない?」

『え……そんなこと、ないと思うけど』

俺の言葉を、さーちゃんが自信なさげに否定する。何かあってからでは遅い。何もなければそれでいい。

「心配だから、すぐに店を出て」

『うん、わかったわ』

電話を切ると、実花が俺の袖を掴んだ。

「ねえ、行かないでよ」

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